体制維新――大阪都 (文春新書)
■日本の体制が抱える構造上の問題とは?
日本はこの20年間、15人にのぼる総理大臣をすり替え、共産党以外の全政党に政権を経験させた。また経済政策、福祉活性、技術振興など、あらゆる政策も試してきた。しかし停滞からは抜け出せていない。これは日本の課題が、人事や政策を変更するだけでは足りず、さらにその奥にある構造(体制システム)を変革しなければ解決できないことを示している。
最も解決すべき課題の1つに「中央集権型」の体制が挙げられる。現在の日本の政策・行政は、永田町と霞ヶ関で、日本の隅々までコントロールする構造となっている。例えば沖縄の僻地の道路建設や、地方の保育園の必要面積などまで、「中央」が全てを決定している。1980年代まではこの体制が有効に機能した。規格大量生産の時代で、一律に成長を促すことが求められていたから。しかし今は各地区が多様性に富み、各々の要望を持つようになっているため、従来型の体制が機能しなくなっている。
■では日本はどんな体制を目指すべき?
役割分担を明確にして、権限と責任を委譲すべき。その手段の1つが「地方分権」。現在は国(=中央)がすべてを取り仕切っているが、国は、国がすべきことに集中し、地方に任せるべきは地方にどんどん仕事を委譲することが必要。国がすべき仕事とは、外交・防衛・マクロ経済対策・成長を促す法令の整備、さらに大元となる国の大きな方針を示すこと。
一方で個別の成長戦略は、権限(&カネ)と責任を委譲した上で、各都市圏(=広域行政体)に任せる。北海道は北海道の、関西は関西の、九州は九州の独自の事情・資源があり、目指すべき都市像も違っているため。広域行政体が行うのは、都市圏の成長戦略・インフラの整備など、広域に渡る政策。世界の成長都市(NY、ロンドン、パリ、上海、ソウルなど)は、いずれもこうした体制となっている。橋本知事は、この広域行政体を「大阪都」によって担うことを想定し、いずれは道州制へとシフトすることを望んでいる。
さらに、より住民と密着すべき行政サービスは、地域の基礎自治体(区、町、村など)が担当する。これは教育や医療、福祉などが主な対象。地域の住民の声を吸い上げ、ダイレクトにサービスに反映する必要があるため。ちなみに現在の大阪では、大阪「府」と「市」が、上に挙げた都市の成長戦略・インフラ整備、教育・医療・福祉などを、それぞれが独自に行っており、二重行政による非効率が多々発生している。これを解消し、大阪都=広域行政体、区=基礎自治体、とすることが今回の選挙での橋下知事率いる「大阪維新の会」の目指す姿。
峠の群像 [DVD]
農本主義から重商主義への転換期という経済小説の要素が入った忠臣蔵です。そのため、仇討ち派の描写と並行して、仇討ちに参加せず、塩田開発に賭ける、石野七郎次(松平健)一派の描写もあります。
主役の大石内蔵助(緒方拳)は、狂言回しと言ってもよく、浪士の中では、不破数右衛門(小林薫)と片岡源五右衛門(郷ひろみ)の動きが大きな役割を果たし(また二人ともカッコイイ特に小林薫)、堀部安兵衛が完全に霞んでいます。
石野達は、塩田開発を続けるため武士である事を捨てざるを得なくなりますが、仇討ち成功後、不忠者として赤穂を追われます。大石と別れの際、大石から「多分、誰も間違っていない。」と立場や考えの違いを理解するセリフがあっただけにやりきれません。
バカ殿丸出しの徳川綱吉(竹脇無我)、天然ボケな町子(吉田日出子)、そんな二人の間で仕事をこなす柳沢吉保(岡本富士太)の描写や、ちょっとベタでくどかったけど、石野と竹島素良(多岐川裕美)、片岡と十文字屋おゆう(古手川祐子)、不破と竹屋美波(樋口可南子)ラブロマンスも彩りをそえてくれました。
難を言わせて貰うと、オープニング音楽は素晴らしいのに、画面は露光過多でクレジットが読み難い事です。
日本を創った12人 (PHP文庫)
レビューの高評価につられて読んでみたが、期待通りの名著であった。
本書は、表紙に載っている12人が残した哲学や制度が、現代日本の文化、政治や会社における権力構造、さらに価値観や宗教観、勤労観などにどのような痕跡を残しているかを論じた書。そのような意味で『日本を創った』というタイトルは大変的を射ており、400ページ超と厚めの書ながら一気に読ませる。
日本における「上品」の概念、神仏習合の思想、朝廷と幕府の権力二重構造、公家文化と武士文化の分裂によるそれぞれの発展など、各事象や現代に生きる概念、制度システムが「いつ」「なぜ」「だれに」「どのようにして」うまれ、それらが現代日本人の生活にどれだけ深く、無意識の段階まで根付いているかという事が全編にわたって説明されている。
日本人論とされる本はよく書店でも目にするが、類書とは比べ物にならないほど納得できる記述に満ちている。
これほど人に薦めたくなる本はなかなかないが、歴史を学び始めた中高生、日本文化や価値観の成立に関心がある方は特に必読といえる。肩ひじ張らずに読めて得るものが多い名著である。