あえて言うなら「太平洋戦争(対米戦争)」肯定論、韓国併合・満州国・日中戦争は肯定できない(悪かった)論、とはいえしかたなかった論、です。
「大東亜戦争」への分析・評価と歴史観が、戦勝国の都合やマルクス主義の歴史観に偏ってはいないか、という問題意識が強く述べられています。幕末からの「東亜百年戦争」という概念、欧米の東洋侵略への抵抗戦争を説明する体裁となっているため、抵抗主体としてナショナリスト、ナショナリズムの分析にも重点がおかれています。
著者自身、同時代を生き、かつ転向「日本主義者」であったため実感のこもった分析だと思いました。「新・旧ナショナリストという概念はない。」「ナショナリズムは必ず牙と爪を伴う。」「ナショナリズムは必ず膨張主義を伴う。」「ナショナリズムは国家的エゴイズムである。」
内容から見ると不謹慎ですが、歴史こぼればなしが興味深かった。また、安易なラベル付け、いわゆる「あの人は右翼(左翼)だから・・」といった先入観が不毛なことにも気づかされました。
・北一輝は処刑時に天皇陛下万歳唱和を拒否した極端な天皇機関説論者だった。彼の日本改造案は戦後改革と共通する部分がある。
・2・26事件後に刑死したある将校は、彼らの一挙が軍部のファシストに利用されて軍国主義一辺倒になるだろうと予想し憤慨した。
・徳川義親侯爵は戦前右翼運動に出資したが、戦後返却されたその資金を日本社会党に出資し、結党の協力した。
などなど。
抵抗がありそうな場合も一歩引いて読んでみるのをお薦めします。左翼史観全盛の40年前、元「日本主義者」の著者が実感を込めて自身の「思想」を記述したとの前提を踏まえれば誰でも得るものがあるのではないかという内容です。
戦後の東西冷戦の枠組みが壊れ、なんとなくそれ以前の世界史的文脈に復帰しつつある気がする今日、意味がある書物と思えました。
なんとなくコスモポリタンだったのだけど、最近のニュースなどでナショナリストへの居心地の悪い誘惑を感じている自分にはよい書物でした。