天皇の起原
『天皇の起源』
林房雄
四六判、295ページ、ソフトカバー
2006/2/28
発行 シーエイチシー
発売 コアラブックス
三島由紀夫論ではないが、
「三島由紀夫の天皇観」
について1章をもうけている。
47ページていどの小論であるが、
三島理解のためには欠かせない論考である。
本書じたいは
歴史学や宗教学や民族学などいろいろなアプローチを試み、
また歴史学者たちの諸論の紹介と批評もされている。
さらに今日ではほとんど忘れられている
里見岸雄
や
橘孝三郎
の主張についても言及しており、非常に参考になる。
某新書の「天皇論を読む」など、本書に比すとほとんど無価値と思える。
関心のある者にとっては必読の一書である。
オススメ度 ☆☆☆☆☆
・・・・・・・・・・・・
目次/2
序章 世界の謎―天皇/9
第1章 太古の日本列島/15
第2章 原始信仰と日本民俗学/35
第3章 天皇とシャーマン/45
第4章 呪術・宗教・科学/67
第5章 フレイザーとベネディクト/87
第6章 無私の天皇/111
第7章 神話と歴史/137
第8章 戦後派歴史家の天皇論/159
第9章 三島由紀夫の天皇観/191
第10章 天皇と大嘗祭の秘儀/241
第11章 天皇と宗教/261
あとがき/295
現代語訳 大西郷遺訓 (新人物往来社文庫)
初め岩波文庫版を買うつもりでしたが、写植の字も小さく現代語訳も無いのでこちらにしました。
こちらを買って大正解でした。
一節につき、原文と現代語訳と解説の三つが載せられています。
非常に分かりやすく、良識的かつ常識的な解説の内容にも敬服しました。
難を言えば、カバーのデザインが少し安っぽいところでしょうか(汗)。下の三行のコピーは帯にするべきだと思います。
第三十二 外交
「相手の強大さに縮みあがり、その場の円満解決のみをはかり、相手の要求に従う時は、かえって軽蔑され、好親はかえって破れ、ついには相手の意のままに制御される結果になる」
この一節などはまさに、尖閣問題で犯した日本政府の過ちを、100年前の西郷が見事に斬り捨てています。
現代の政治家は、大西郷の爪の垢を煎じて飲む資格すら無いように思います。
また、最終章に付された著者(林房雄)の言葉は、これが書かれた三十数年前よりもむしろ今こそ意識されるべきものでしょう。
多くの若い日本人に読まれるべき書です。
大東亜戦争肯定論
あえて言うなら「太平洋戦争(対米戦争)」肯定論、韓国併合・満州国・日中戦争は肯定できない(悪かった)論、とはいえしかたなかった論、です。
「大東亜戦争」への分析・評価と歴史観が、戦勝国の都合やマルクス主義の歴史観に偏ってはいないか、という問題意識が強く述べられています。
幕末からの「東亜百年戦争」という概念、欧米の東洋侵略への抵抗戦争を説明する体裁となっているため、抵抗主体としてナショナリスト、ナショナリズムの分析にも重点がおかれています。
著者自身、同時代を生き、かつ転向「日本主義者」であったため実感のこもった分析だと思いました。「新・旧ナショナリストという概念はない。」「ナショナリズムは必ず牙と爪を伴う。」「ナショナリズムは必ず膨張主義を伴う。」「ナショナリズムは国家的エゴイズムである。」
内容から見ると不謹慎ですが、歴史こぼればなしが興味深かった。また、安易なラベル付け、いわゆる「あの人は右翼(左翼)だから・・」といった先入観が不毛なことにも気づかされました。
・北一輝は処刑時に天皇陛下万歳唱和を拒否した極端な天皇機関説論者だった。彼の日本改造案は戦後改革と共通する部分がある。
・2・26事件後に刑死したある将校は、彼らの一挙が軍部のファシストに利用されて軍国主義一辺倒になるだろうと予想し憤慨した。
・徳川義親侯爵は戦前右翼運動に出資したが、戦後返却されたその資金を日本社会党に出資し、結党の協力した。
などなど。
抵抗がありそうな場合も一歩引いて読んでみるのをお薦めします。左翼史観全盛の40年前、元「日本主義者」の著者が実感を込めて自身の「思想」を記述したとの前提を踏まえれば誰でも得るものがあるのではないかという内容です。
戦後の東西冷戦の枠組みが壊れ、なんとなくそれ以前の世界史的文脈に復帰しつつある気がする今日、意味がある書物と思えました。
なんとなくコスモポリタンだったのだけど、最近のニュースなどでナショナリストへの居心地の悪い誘惑を感じている自分にはよい書物でした。