Happiness Is the Road 2: Hard Shoulder
UKのベテランMarillion。このバンド、80年代にカリスマVo・フィッシュを擁し成功し、Voがスティーヴ・ホーガスに代わり精力的に活動。90年代中期にメジャーのEMIから契約を切られたのだが、逆にそういったしがらみがなくなった分、自分たちのやりたい音楽をを貪欲な創作意欲で作り続けているのが素晴らしい。だって、去年「Somewhere Else」を発表したかと思うと、今回は2枚同時発売(HPにおけるメールオーダーでは2枚組豪華仕様)なのである。アルバムのブランクが4年5年は当たり前になった昨今、ベテランである彼らがこうやってコンスタントにアルバムを発表し続けることをまず評価するべきであろう(まあ、契約的に身軽ってのもあるんだろうけど)。
スティーヴ・ホーガスが加入以降のMarillionの名盤といえば奇跡的にプログレ的アプローチとなった「Brave('94年)」や次作の「Afraid Of Sunlight('95年)」あたりの名前が挙げられ、どちらかというとそれ以降、つまり2000年以降の作品は、輪郭のはっきりしたPOPでロック的なアプローチが目立つせいかイマイチ過小評価されているのが残念である。まあ、私だって上記の2作は大好きだし傑作ということには異論はないんだけども、よく聴けばけばその後の作品だって枠組み自体は変わっても根っこの部分、独特の透明感や叙情性、浮遊感は変わっていないのである。そんなこと、彼らが好きで数年聴き続けてきた者ならすぐにわかるのだが、ファン層には未だに「Brave」を求める人が多いのもまた事実であろう。
で、今作だが、一聴したところ、相変わらずのMarillion節全開。個人的にはかなり「Afraid〜」に近い感触を持った作品である。「This Train Is My Life」の冒頭部分なんかは名曲「King」などを彷彿とさせられるし、タイトル曲で10分を越える大作である「Happiness Is the Road」における静寂の感じられる展開(途中ちょっとレゲエ調のリズムがあったりして面白いのだけど)は少しだけ「Brave」の壮大さを思い出させられたりする。こういった曲は今やMarillionしか作れないだろう。すでに職人の域に達していると思う。
まあ、かつての作品との比較はアーティストとして活動している以上迷惑な行為であるのでやめておいて、全体的にホーガスMarillionの持つ不変の「根っこ」の部分がここ数作の中では一番色濃く抽出された作品だと私は思う。My Spaceで先行発表されていた「Whatever Is Wrong With You」なんかは彼らの真骨頂と言いたくなる佳曲であろう。ファンであれば納得の1枚…いや、2枚である。
ただ、若干2枚を通して同じようなテンポ・アプローチの曲が続くため、全部通して聴きとおすのはつらいということだけは挙げておきたい。できれば最初はなんとなく流しておくのが良いと思います。
しかし、この勝負作、相変わらず日本発売はない('98年の「Radiation」以降ないんだけど…)。これだけ実績・能力のあるベテランバンドなんだから、いくらインディレーベルからのリリースとはいえ、そろそろ日本盤でリリースしてもらいたいものである。過小評価の要因はそれにもあるんだと思うんだけどなあ。
いいバンドはこんなところにもいますよ〜。
Misplaced Childhood
グラスの氷に映った月の影のような切ない美しさを帯びた
詩の数々。
繊細で感受性の強い主人公が、社会に適合できずに
現実と戦い続けてズタボロに傷つき息絶え絶えになって
いる「現在の世界」と、
五月の花のような暖かさを湛えた純粋な少年時代・そして
自分に優しくしてくれた女性のいる「記憶の世界」が交錯し、
主人公は自分に内在する二つの世界をうまく繋ぎ合わせて
新しい自分を創り出し、窮地から抜け出そうとするが、結局
果たされない。
そんな主人公の苦悩など全く無視し、社会は戦争・ドラッグ・
暴力・セックスに次々と支配され、純真な子供達や子供のように
純真な心を持った人間達はますます住む場所が無くなっていく・・・
こんなことでいいのか?いや、いい筈がない。
そして、主人公はついに、世界の子供達に呼びかける為に立ち
上がろうとするのだが・・・
(結局、続編の「Cluching at Straws」で絶望とアルコール依存の中、
主人公は自嘲しながらフェードアウトしていくことしかできなかった)
本編には収録されずボーナストラック扱いになるが、「Ladynina」も名作。
Clutching at Straws (Spec)
前作「Misplaced Childhood」での成功は、しかしボーカリストのフィシュに過度の重圧と精神的苦痛をもたらす結果となり、遂には本作完成後に彼は脱退してしまう。本作はフィッシュ在籍時のラストアルバムである。
今回のテーマは「アルコール中毒」という極めて現代的なもので、当初フィッシュは全曲カヴァーで作ろうとしたらしいが他のメンバーの反対にあって従来通りのオリジナル曲による作品となった経緯がある。
個人的にはtrk2,3,10といったウェットな色彩感が美しいメロウな曲に心惹かれるが、全体的には過度なメロディの露出が抑えられ、どちらかというとハードな曲にもう少し魅力的なところがほしかった、という気もする。(勿論trk7のような名曲も入ってはいるが)
ボーナスディスクには、今では入手困難な当時録音された??ア音源が満載で、ファンには嬉しいところである。
Fugazi (Bonus CD) (Spec)
楽曲自体はそんなに悪くはないのだが、いかんせん音が薄っぺらい。このバンドには薄っぺらい音は似合わないのだ。しかし、それをそんなに気にしないのならば、十分に楽しめる作品だ。
Brave (Bonus CD) (Spec)
イギリスのロック・バンド、マリリオンが1994年に発表したコンセプト・アルバム。柔らかい中に芯の強さを備えた2代目ヴォーカル:スティーヴ・ホガース加入後を「後期」と呼ぶのだが、これはその後期の代表作である。
イギリスの高速道路「M4」の橋の下で記憶を失い、錯乱した少女が発見された。この少女の情報を求めるラジオ放送を運転中に聞いたSteve Hogarth(vo)は、非常にショックを受けたと言う。「一体、今の社会で何が起きているのだろう?」そうしてこの実話を元に彼は詞を書き始めた…。初めは2、3曲のつもりだったそうだが、書いていくうちに、それはアルバム全体に及ぶ壮大な叙情詩となって行く。
「無味乾燥なTV、垂れ流しの化学物質、学校ではいつも型に押し込まれていた…そんな世の中に慣れなくては!」と歌う "Living with the Big Lie"、「家に連れ戻された時、泣いたかい? 逃亡者…仕方ないね」と歌う "Runaway"、徐々に自分を失って壊れていく主人公の叫びを「Tell me I'm mad!」という言葉に込めた12分の大作 "Goodbye to All That" など、現代的なタッチのメロディーと、絡み合う効果音の中、シリアスかつ悲痛な詞が駆けめぐる。
終盤、"The Great Escape" で逃避行のクライマックスを迎えたストーリーは、最後に "Made Again"(=生まれ変わる)で、ひとつの「救い」に到達する。アルバム中唯一の優しいナンバーであるこの "Made Again" のメロディーはとても美しく、主人公は朝の光の中で「希望」という新しい自分を見出すのだ。
現代社会を「音楽」で見事に表現しきった素晴らしい作品で、自分はこれを超すアルバムは出てこないのではないか? とさえ思っている。番組の主題歌や、CM音楽には全く使えないタイプの音楽であるが、これがヒットチャートのトップ10に食い込んでくる所に、イギリスのシーンの奥深さを感じる。
詞も、メロディーも、アレンジも、どこから聞いても素晴らしく、大作であるにも関わらず、無駄な展開が殆どない。ちょっと信じられないアルバムである。繊細で叙情的なメロディーが多数織り込まれている他、要所要所ではラウドに盛り上がり「ロック」のダイナミズムも楽しめる。是非多くの人に聴いて欲しいと思う。