会社蘇生 (新潮文庫)
会社更生法の適用を申請した企業の社員の苦悩と保全管理人に選出された弁護士の涙ぐましい努力が非常によく伝わります。普段新聞で更生法や再生法の記事が出てもその保全管理人がどのような仕事を行っているのかまでは詳しく書かれていないためこの本を読んで目から鱗でした。通常の経営者以上に経営手腕に長けていないと保全管理人は務まらないことが良くわかりました。
この本は保全管理人である弁護士が主人公ですが、企業の更正に望みを託す社員や取引先、支援企業の役員など一人一人も主人公のように描かれており大変面白く読み進むことが出来ます。
不撓不屈 [DVD]
会計の世界というのは地味と言いますか、企業経営の中では縁の下の力持ちですが、その大切さは経営の経験のある方は十分ご承知だと思います。
この映画は、TKCの創設者飯塚毅氏の俗に言う「飯塚事件」を描いています。税理士が国税局という国家権力の恨みを買い弾圧を受けます。飯塚氏が職業に忠実でありすぎたため、役人以上の知識を深め、間違いを正したことに由来します。この事件は1960年代高度成長期を前に起きます。飯塚氏は中小企業が割を食わないように新たな節税方法を考え出し顧客に教えていたのですがそこを狙われます。国家権力を背景にした人物から怨恨によって追い詰められてゆく民間人の姿がそこにあります。恐らく似たようなことは今もあるのでしょう。「不撓不屈」の精神で信念を貫く飯塚氏の姿は神々しくもあります。飯塚氏を演じる滝田栄さん、奥さんの松坂慶子さんが素晴らしかったです。原作は高杉良氏。日本人の心に大切なものを思い出させてくれる映画です。是非ご覧下さい。
虚像〈上〉覇者への道
「井岡堅固」国立東都大学(≒東京大学)卒の仕事バリバリできる超エリート、この物語の主人公です。自分には到底、こんなに仕事できないなと思いながらも、いつもながら読み進むにつれ物語に引き込まれてしまいます。
「この登場人物はあの人がモデル」、「この会社はあの会社のこと」「あの事件の事か」などと思い起こしながら物語を読み進めていきますが、戦後〜直近日本現代史的な側面もあるほど様々なことが盛り込まれた小説です。逆に沢山盛り込み過ぎたためか、「金融腐蝕列島」シリーズなどの高杉作品よりも奥深さが足りないのかな?という面も少しあるように思います。しかし、「小泉・竹中路線」を指弾し続けてきた最近の作品の集大成的な意味合いもあるのだとおもいます。
また、「藤村政雄」(「乱気流」に登場)をひどくこき下ろすあたりなどが、高杉作品初心者の方には「?」という部分もあるかなとも思われますので、この作品を読む前に他の高杉作品で予習することをお勧めします。
下巻にすすむと「前・横浜市長」や「簡保の宿問題」のこと等が描かれています。「実はそうだったんだ」という必見の書です。
破戒者たち <小説・新銀行崩壊>
こういったいわゆる「経済小説」はめったに読まないのだが
日本振興銀行破綻の顛末に少し興味を持って本書を手に取った。
金融の新ヒーローともてはやされた「村木」を中心に、
業界の面々が「新日産興銀行」をめぐってさまざまな駆け引きを繰り拡げる。
銀行の私物化、大手マスコミとの癒着やリーク合戦、利権に群がる者たち。
そこにあるのは「中小企業を助けよう」などという崇高な意図では決してなく、
自らの金銭欲や功名心に駆られて金融界をわたり歩こうとする
「破戒者たち」の醜悪な姿だ(当事者は実名に近い名で描かれる)。
大手新聞社記者との癒着によって、大衆には真実が伝わらない点なども
明らかにされている。
善玉も登場はするが、これらエゴイスティックな輩が
当時の金融政策に多少なりとも関わったかと思うと慨嘆を禁じえない。
巻末近くの「金融庁が変わらない限り……第二のソニーは生まれない」という
登場人物の言葉が重い。
もちろん本書は著者の主観の入ったフィクションであり、
モデルにされた側は弁明したくなるかもしれないが
多くの人びとの預金を弄び、混乱を生じさせた罪は大きいと思う。
このような人種が寵児としてもてはやされた時代とはいったい何だったのか。
日本振興銀行の破綻に関わった人びとに関心のある方には一読をお勧めします。
金融腐蝕列島 呪縛 [DVD]
金融、ビジネス、政治などには少々興味があり数年前に中古のビデオ版を購入しました。続編も買いましたが作品的には、こちらの方が好きです。続編はこの作品と違い、人間のドロドロ感が少なく比較的さらっと作られた感じがしました。この作品では恐らく監督と役所さん椎名さんは人間の内面の汚さを表現したかったのではと思います。なので銀行を舞台にしながらも銀行に係わる人間の内面が主になっていると思いました。役所さんはこのような人間くさい役を演じると本当にうまいと思いました。椎名さんは役所さんと行動を供にしながらも自分の心の中を明かさない腹黒い役がはまっていると思いました。そして出番は少なくても仲代さんの全く罪悪感や危機感のないような銀行のトップが作品を盛り上げます。たしかに総会のシーンは作品の中ではメインともいえるシーンですが、そこが、やや簡単に終わるところはいただけないとは思いますが実際こういった不正融資の直後の総会では泥試合的になりスッキリした終わり方はできないと思いました。できれば総会を締めくくるような発言をした老人の内面を表現してほしかったです。