もうひとつの代表作『ソングライン』に比べて、入りこんだ思想的なテーマこそもってはいないが、紀行作家である以前にまだひとりの旅人であったチャトウィンの繊細な感性と誠実なまなざしが共感を誘う。世界の果て、パタゴニアに生きる風変わりな人々を初期ヘミングウェイを思わせる簡素で、乾いた文体で見事に描いてみせている。記憶や夢、そして知られざる歴史をも巡る彼の旅は、私たちの想像する旅というものの観念をはるかに超えているといえるだろう。灰色の空、容赦なく吹きつける風、砂塵舞う町、どこまでも広がる荒涼とした土地、そして、そこに住む風変わりな人々と彼らの語る夢物語の数々。しかし、それでいて、このどこまでも悲しみにみちたパ!タゴニアの風景は、かすかな希望をも漂わせている。