時代屋の女房 [DVD]
昭和50年代、古きよき時代の東京下町の商店街を背景に繰り広げられる、屈折した男女の愛の展覧会のような作品。原作は直木賞を受賞した。それを森崎東監督が映画化し、原作を上回る名品に仕立て上げた。
主役の真弓は若くして逝った夏目雅子、彼女の白鳥の歌ともいえるすぐれた演技によって、こんなに見応えのある作品ができた。この映画のなかで、彼女は最大に美しく、華やかで、愛らしく、しかも気品があり、きりっとして光り輝いている。
夏目の大胆・鮮烈な演技と渡瀬の表面淡々としながらも愛の苦悩あふれる迫真の演技が本編最大の見所であるが、助演者もそれぞれに好演で、津川、中山、平田などさすがと思わせる。どのエピソードもおもしろい。二役としての夏目の美郷も可憐さがよくでている。
なかでも、面白いのは、盛岡の馬を飼っている旅館でのどたばた騒ぎ。津川雅彦、名古屋章、平田満の演技が光っている。
原作は短編に近い短かさで、主人公はじめ主要人物も薄墨色の背景のなかに沈んでいる。人物も映画ほどに魅力的ではない。それに対し、本編は、人物の一人一人にスポットライトをあて、鮮やかに背景のなかに浮かび上がらせた。どの人物も魅力的である。映画が原作を上回っているという所以である。夏目雅子の追悼作品としても、是非一度ご覧いただきたいと思う。
なお、この映画の主題曲も哀愁のあるいい曲で今では伝説的歌手となったちあきなおみが歌っている。懐かしく思われるかたもあるのではなかろうか。
百合子さんは何色―武田百合子への旅 (ちくま文庫)
「富士日記」「犬が星見た」などの一連の傑作が、夫泰淳の影響という以上に、百合子夫人の少女時代より培ってきた感性と表現力によるものであることを、彼女の習作や埴谷雄高などの証言、そして本人との付き合いを通じて記した評伝。村松友視のノンフィクション作品の多く(例えばプロレスもののすべて)に言える事だが、着想点は素晴らしいものの、今ひとつ核心の部分、暗闇の部分に踏み込まず、撫でて賛美して通り過ぎる嫌いは、本作においても例外ではない。
時代屋の女房 [DVD]
時代の設定や当時の風景は古いものですが、むしろ懐かしさを感じるぐらいに
適度なもので、かえって古道具屋の店の雰囲気とピッタリ合っていて
違和感無く見ることが出来ます。
夏目雅子さんは、この作品の2年後に帰らぬ人になりますが、
しっかりと役にはまった最高の演技を見ることが出来ます。
銀色の傘をさし猫を抱いて時代屋を訪れるシーンは、すごく可愛く愛らしい。
共演する俳優陣も個性派揃いで、森崎東監督の手腕も光ります。
下町の現実的人情味ある風景に、謎の家出を繰り返す真弓のミステリアスな行動が、
アンバランスなのに何故か面白い。
ラストシーンは、とても嬉しくなりホッとしてしまいます。
映画の舞台裏を案内してくれる特典映像は必見です。
アブサン物語 (河出文庫―文芸コレクション)
読んだのはもう随分前になるのですが、とても面白く読めました。なんの誇張もない、ただただアブサンへの愛情、そんな言葉もわざとらしく聞こえるような自然な関係が描かれていて、とても感動しました。ぜひ犬・猫好きな方に読んでいただきたい一冊です。
帝国ホテルの不思議
帝国ホテルを支えているスタッフは本当に多岐にわたり、それぞれがプライドを持って仕事をされている様子を伝える一冊でした。
「プライドを持って全力を尽くす」ことは、どんな仕事であっても共通するということを改めて認識させてくれます。
個人的にはデューティマネージャーという総支配人代行の立場にある方の
「それぞれの人の期待値を見抜いて対処する。そしてそれに紙一枚乗せたサービスをしなさい」
という言葉は印象に残りました。
この言葉に出会えたことが、私にとって非常に価値のあることでした。
サービスとは?
仕事とは?
という誰もが一度は立ち止まる疑問に寄り添ってくれる一冊なので、新社会人の方よりも少し仕事ができるようになった方が読まれるとより吸収できるものが大きい気がします。
「俵屋の不思議」でも感じましたが、そのスタッフさんの思いを伝える著者の文章の旨さが際立っています。
すっきりと上品な文章は「俵屋」「帝国ホテル」を語るにふさわしいと感じました。
写真掲載が少なめなのが残念。