屋根の上のバイオリン弾き
いわずと知れたミュージカル大作。誰もが耳にしたことのあるしみじみと懐かしい曲、「サンライズ・サンセット」。今でも聞くと涙がにじんじゃう。
こんなお父さんがいてくれたら! と思うオープニング「トラディション(伝統)」。親の心を知ってか知らずか、娘たちの、心のざわめきと愛らしい歌声の「マッチメイカー」。
何と言っても、さすが映画音楽のジョン・ウイリアムズと思わせる結婚式のシーン。ヴァイオリンとダンスで盛り上がるユダヤの世界。
ヴァイオリンといえば、最初と最期を仕切るテーマ曲を演奏する、なんとも哀愁を帯びた響きは、やはりユダヤ人のアイザック・スターンによるところが大きいと思う。
ちなみにティビエ役の人は、1990年代もずっとブロードウエィで主役を張っていました。さすがの歌声です。だから、是非!
屋根の上のバイオリン弾き [DVD]
変化していく社会の中で伝統を維持しようとすると,必然的に矛盾が生じる.ましてや,テヴィエたちが住んでいるのは異質なグループに周囲を取り囲まれた不安定な集落である(しかも革命前夜).彼らの直面した問題は,そのような危険な場所(=「屋根の上」)で頑なに伝統を守ろうとする生活が,変化していく社会と否応無しに対峙していく中で,いわば起こるべくして起こった悲劇である.
社会の変化の速度は一定ではなく,加速度的に増大していく.3 人の娘の結婚のはらむ問題がどんどん困難になっていくのが,そのことを象徴している.そして,最後には個人の思惑などをはるかに超えた大きな力で共同体自体が破壊されてしまう.そのような状況の中で,ユダヤの伝統と変革の波との間で生じる大きな葛藤に対し,不器用ながらも常にユーモアを忘れずに取り組み,受け入れ難い変化を受け入れたり,時に拒絶する,そんな平凡な人間であるテヴィエの等身大の悩みや喜びが静かな感動を呼ぶ.
物語の最後,バラバラに旅立っていく彼らは,移住先でも伝統を守っていこうとすることだろう.それは,テヴィエがバイオリン弾きについてくるよう促していた場面にはっきり示されている.しかし,危ういながらも何とか保たれてきた,伝統的な生活を支えてきた共同体は既に崩壊し,いや増す速度で変化し続ける社会と伝統との間の矛盾はますます大きくなる一方だろう.心のよりどころ…文化的アイデンティティと言い換えてもよいだろうが…を失い続ける彼らの悲劇はまだ始まったばかりである.果たして彼らはいつまであの美しい旋律を奏で続けていけるのだろうか.もちろんテヴィエはこれからも,常にユーモアを忘れず,引き裂かれるような困難や矛盾の中に身を置きながら,等身大の生活を続けていくのだろうが.多くの苦悩と,ほんのささやかな幸せを手に入れつつ.
テーマも素晴らしいが,ミュージカル映画としての出来映えも,これ以上のものが考えにくいくらい素晴らしい.映画のどこをとっても,忘れることのできない力強さを持った特別な作品である.
屋根の上のバイオリン弾き [DVD]
<元気コメント>
貧しくともそれまでの生活の支えとなっていた伝統が身内からくずれ、追い討ちをかける言われなき国外追放。
平穏に生きること、生きられることを改めて実感します。