北条早雲 (SPコミックス)
永井豪作品としておちつきのある、歴史漫画。
独特のインスピレーションを持つ永井豪作品のなかでは、きっと地味目。
その分説得力がある、北条早雲伝。
戦略眼、戦術眼を鷹の目として表しているのだろうか。応仁の乱から関東制覇までを描く。
歴史的には名君だったとされ、家訓もよくひきあいに出される後北条氏の祖。
独特の政情判断と家臣団による活躍が見物。太田道灌とのエピソードはモデルは秀吉かもしれない。
今でも小田原といえば、早雲。鎌倉と頼朝のようなもの。
美女の裸体像も少なく、超人的な武将も少なめだが、まぎれもなくダイナミックプロの作品。
手天童子、バイオレンスジャックの素材の一つとなっている歴史漫画なのかもしれない。
味のある歴史シリーズの一冊。
謀将 北条早雲〈上〉 (角川文庫)
無駄な濡れ場が多いのが少し気になりますが、大衆時代小説としては良いのかな?
北条早雲自体は魅力的な存在だけど、あまり個性や哲学を感じる人間の深みが感じられなかったので残念。
新装版 箱根の坂(上) (講談社文庫)
司馬夫人いわく「司馬さんはどんどん若くなっていった」。
司馬氏の長編のなかでも最末期の作品のひとつ(日本史を題材とした長編としては遺作か?)です。
坂本龍馬のような「若き現実家」を描いてきた氏の作品の中では異彩を放つ作品であるように思われます。
日本の将来について,ややペシミスティックになっていたと思われる氏の「祈り」のようなものがこめられているようにも感じられます。
ときは応仁の乱で荒れる京都。
室町将軍家も大名も,民の暮らしを顧みることなく,領民の「生き血を吸う管」を奪い合うかのように,苛烈な権力争いにうつつを抜かしていました。
「天下ハ破レバ破レヨ,世間滅ババ滅ビヨ,人ハトモアレ,我身サヘ富貴ナラバ…」(応仁記)
北条早雲こと伊勢新九郎は,若年のころ,こういった権力中枢の退廃を間近で見ていたが故に時代に幻滅し,青年時代を無為に過ごしていました。
そのため,「人生50年」の時代にもかかわらず,その歴史的な活躍は50代以降という桁外れな大器晩成の人物として描かれています。
(最近の研究では,もっと若かったという説が有力だそうですが…。)
40代になってから駿河今川家の家督相続問題に関与して地方の小領主となった早雲は,生産力の向上によって急速に力をたくわえつつあった「国人」(要するに名もなき「国民」)のための政治を志向して,おのれの理想を実現すべく老いた身体にむちうって奮戦します。
「わしは,坂を越えて小田原に入る」「古き世を打ち破る」。
民政主義を掲げて「箱根の坂」を超えて関東に乱入し,室町体制の打倒を決意する「老いた革命家」の物語です。