祇園さゝ木 佐々木浩の舞台 (永末BOOKS)
既に3冊目。ただし、視点はいつも食する側なのには驚く。そして今回は写真が素晴らしい。カメラマンのセンスでこんなにも料理が違うのかとつくづく思い知らされる。編集方針もこんなにも敷居が低く出来るのは何故か?多分これは想像の域を出ないが、あくまでも料理とは人が作るのであって、料理が人を作るのではない、さらに食する人が店を作るのだという極めて明快な思想が根底にあるはずである。だから今回は「舞台」という表現になるのだ。その「舞台」に手が届く距離で食する我々にはただ拍手を贈るしかない。とここまで書いてふと思ったことがある。随分と昔、肌身離さず持ち歩いた英単語の赤本を思い出したのである。だからこれは私にとって「佐ゝ木の赤本」なのである。それほどの値打ちを感じた。
祇園さゝ木の特等席
祇園の一郭に小さなお店を出して、今は建仁寺の近くに素敵な店を構えている。店も大きくなったし、スタッフの数もずいぶん増えた。しかしそれでも基本は変わらない。カウンター17席が中心で、その前に佐々木氏が立ち、スタッフを従えて6時半開宴。そこから約3時間、次々と見事な料理を振る舞いながら、客を和ませ、客を笑わせつつ、一夜の歓楽を提供する。その様子を見事に映し出した本。「特等席」とはまさにその通り。最初に嫌いなものはありませんかと聞かれたので、「実は...が」と答えたら、「ええっ? 今日のメインや!」とのリアクション。料理が進んで、最後に食事が出てきたら、その嫌いなものが入っていた。そこですかさず佐々木氏。「わざわざ別に2合炊きましてん」と言って、にこっと笑う。これで一座もほっとする。至福の3時間でした。この本、そんな味わいが実によく出ています。ライターと編集者にも拍手!!!
祇園さゝ木の12か月 直伝レシピ手習い帖
ミシュランで2つ星を獲得した祇園さゝ木の佐々木さんの料理哲学や料理のレシピが掲載してありますので、居ながらにしてお店に呼ばれたような感じを受けます。
佐々木さんはテレビへの出演も多く、軽妙なトークが来店する客に好評ですが、本書でのコメントもまたユニークで面白いエピソードが詰まっています。寡黙な料理人とは対極にある新しい感性が感じられます。当然のことながらそれぞれの料理の素材には格別気を配っていました。10ページに書かれている「筍を極める流儀」では、掘りたての筍をすぐに料理できるように、バイクで運ぶといった苦労も垣間見られました。このこだわりが料理の質の高さにつながっているのでしょう。
料理本ですので、祇園さゝ木の12か月の特徴ある献立が誌面を飾っています。材料の配分、作り方の工程など、料理人が伏せておきたいような情報も掲載するというのは自信のあらわれだと思いました。
全頁カラーですし、作り方が時間をおって写真に載せられていますから、料理にチャレンジしてみる値打はあるでしょう。この通りに作ったからといって同じような味になるかどうかは分かりませんが、「だしが命」といっているご主人ですから、そのあたり手を抜かなければ上手くいくでしょうね。食材の質が高く、斬新な料理が評判のお店です。「予約を取るのが難しい店」と言われている真骨頂がここに収められています。
12か月のレシピには、毎月4点程度、全部で38品の美しい料理が載っていますので、プロの料理人にも関心があるところでしょう。