四月、日本的情緒溢れる桜の季節である。
そして、満開に咲き誇る
京都嵯峨野の桜と、4人の女優たちの息を呑む艶やかさで始まる、そこはかとない優美で絢爛な世界と言えば、今作である。
谷崎潤一郎の文学世界を市川昆が見事に映画化、他のレビュアー諸氏がこぞって賞賛する通り、四季の移り変わりを捉えたカメラ、戦前の関西芦屋の名家の人々の閑静な佇まいと品位、流暢な関西弁と、本当にこの映画は美しい。
そして、極めつけのスタイリッシュなモダニストである市川昆は、クローズアップの多用で、四姉妹の微細な感情の機微、確執、攻めぎあいをスリリングに描く。
そのケレン味と悠然さを兼ね合わせた演出に、観る者は、ただただ陶酔、眩惑させられるのみだ。
豪華俳優陣による演技のアンサンブルも見応え十分。
主演格の佐久間良子のしっとりとした大人の魅力も素晴らしいが、
吉永小百合の奥ゆかしさの中での芯の強さと一瞬のしたたかさが絶品、この人気女優が、実は紛れもない演技派である事が分かる。
男優陣の石坂浩二と伊丹十三の養子らしい押しの弱さと、打って変わっての狡知ぶりも面白い。
純文学の映画化と言う事で敬遠される向きもある様だが、映画ファンは、新旧の「
犬神家の一族」程度で盛り上がる事なく、この極めて日本的な傑作を堪能して欲しい。