予算はほぼゼロ。でも、一刻も早く自社製品を多くのユーザーに知らせ、使ってもらい、事業を急成長させなくてはならない。
その様な厳しい条件下で挑戦するスタートアップが編み出した、開発とマーケティングを融合させた新たな事業成長手法は”グロースハック(growt
.hack)”と呼ばれ、大きな注目を集めています。カンファレンスや各種記事等で紹介される機会が増えつつありますが、これまで日本には適当な入門書がありませんでした。簡潔に解説された本書が翻訳されたことは、グロースハックに興味を持つ一人として、とても嬉しい限りです。
一般的にはSNSの活用や、リーン・スタイル(高速で検証・改修を重ねる方法)など、個々の技法が知られていますが、グロースハックとして統合・体系化された理論や万能解の様なものはありません。グロースハッカーは原則を理解した上で、刻々と変化する条件に応じ、開発・販促・営業・運用の現場で可能なリソースを駆使し、柔軟に工夫し続けることが求められています。著者がイントロダクションで記しているとおり、本書はそのための原則、グロースハックの基本的な考え方 = ”マインドセット”を学ぶためにまとめられた入門書という位置づけです。全体で140ページと、一気に読通せる
コンパクトな内容ですが、多数の実例をはじめ、巻末の解説では日本のクックパッドや家計簿アプリZaimのケースが解説されるなど、実用性に富んでいます。
本書を開くと、余計な前置きは抜きに、冒頭からA/Bテストという用語や注目を集める各種スタートアップのケースが多数引用され、一気に「グロースハックとは何か」の解説が始まります。 本書はおそらく、読者が基礎的なIT用語・市場現況を理解されていることを前提としている為、冗長となる用語説明等はありません。そのため、IT関連の仕事をされている方や業界の様子をご存知の方にはすっきりと読みやすい内容となっていますが、 インターネット上の各種開発手法やスタートアップ事情を知らない方が読むと、説明不足で分かりづらいと感じるかもしれません。
最新のITイノベーション事情を一から知りたい、もしくは、背景や基礎的な部分から理解したい場合には、まず最初にランダル・ストロス著『Yコンビネーター』でスタートアップの最新事情に触れ、エリック・リース著『リーン・スタートアップ』でスタートアップの事業開発手法を読まれた後に本書を読まれると、グロースハックの重要性とその本質への理解が深まると思います。
あらゆる情報がネット上で一瞬のうちに拡散・共有される現代、このグロースハックはIT業界に限らず全ての分野で、次世代の事業成長に必須の手法として普及してゆくものと予想されています。IT関係者やビジネスマンのみならず、ネットの最先端に関心を持たれている全ての方に、お薦めの一冊です。