薔薇の名前〈下〉
オリジナルは1980年リリース。邦訳はかなり遅くて1990年1月25日リリース。ミステリーの世界で孤高の存在である本作は、ミステリー読破を目指す者にとっては百名山の如く、踏破せずには死ねない一冊とされ、読了後、その思いはますます深まった。作者ウンベルト・エーコは、イタリアの記号論哲学者、小説家、中世研究者として有名だが、もういくつか加えて説明しておくと、エーコの卒業論文は『聖トマスの美的問題』であって、この作品の時代である1327年というのは彼の最も専門とするところである。そしてもう一つ、『三人の記号 デュパン、ホームズ、パース』という本をトマス・シービオクと共著していて生粋のシャーロキアンでもある。
何と言っても圧巻なのはその構造だと思う。生粋のシャーロキアンらしく、主人公に『バスカヴィル』のウイリアムとその弟子(助手)アドソを配しているが、誰しも連想するのはシャーロック・ホームズとワトソン博士だろう。そして長老には、『幻獣辞典』等で有名なホルヘ・ルイス・ボルヘスから取ったと思える盲目の師ブルゴスのホルヘを設定している。また、実在の人物である有名な異端審問官ベルナール・ギー(ドミニコ会士)やフランシスコ会士カサーレのウベルティーノを登場させてくる。原書はラテン語・ギリシア語・中高ドイツ語の原語のセンテンスやフレーズがその原語の表記のまま使われていて、その上に中世キリスト教の在様が重畳的に組み合わされる。正に知の迷宮とも言えそうなストーリーである。
ストーリーについては未読の方のために触れないが、強く感じるのはウンベルト・エーコの『本』に対する愛情だ。中世修道院のスクリプトリウムの文書館3階の構造などは正にエーコの想像した『本の宇宙』のようですらある。その本の宇宙を彷徨うウイリアムとアドソはまるでその宇宙を彷徨うのを楽しんでいるかのような感じすらする。『キリストの清貧』や『キリストにおける笑い』そして『薔薇の名前』の意味における謎など、仕掛けられた知の迷宮の素晴らしさに『恐るべしウンベルト・エーコ!』と唸ってしまう。やはり読まねば死ねない一冊である。
何と言っても圧巻なのはその構造だと思う。生粋のシャーロキアンらしく、主人公に『バスカヴィル』のウイリアムとその弟子(助手)アドソを配しているが、誰しも連想するのはシャーロック・ホームズとワトソン博士だろう。そして長老には、『幻獣辞典』等で有名なホルヘ・ルイス・ボルヘスから取ったと思える盲目の師ブルゴスのホルヘを設定している。また、実在の人物である有名な異端審問官ベルナール・ギー(ドミニコ会士)やフランシスコ会士カサーレのウベルティーノを登場させてくる。原書はラテン語・ギリシア語・中高ドイツ語の原語のセンテンスやフレーズがその原語の表記のまま使われていて、その上に中世キリスト教の在様が重畳的に組み合わされる。正に知の迷宮とも言えそうなストーリーである。
ストーリーについては未読の方のために触れないが、強く感じるのはウンベルト・エーコの『本』に対する愛情だ。中世修道院のスクリプトリウムの文書館3階の構造などは正にエーコの想像した『本の宇宙』のようですらある。その本の宇宙を彷徨うウイリアムとアドソはまるでその宇宙を彷徨うのを楽しんでいるかのような感じすらする。『キリストの清貧』や『キリストにおける笑い』そして『薔薇の名前』の意味における謎など、仕掛けられた知の迷宮の素晴らしさに『恐るべしウンベルト・エーコ!』と唸ってしまう。やはり読まねば死ねない一冊である。
フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)
「薔薇の名前」がとても好きなので、文庫化された時にすぐに買って読み始めた物の・・・とても読みにくかったです。
理由はただ一つ、訳が問題なのです。
他の方もレビューに書かれていますが、普通ならあり得ない言い回しを利用するというのは雰囲気ぶち壊し。訳し方が古いと言うわけではありません。とにかく読みにくい。
全体的に難解さを増してくれている訳に負けて、ずっと放置していました。その後全部読み切りましたが、殆ど意地でした・・・
ところどころ面白い箇所で引き込まれる物の、描写の訳が解りづらく着いていけないこともしばしば。何度読む手が止まったことか。
なので翻訳物が苦手な人にはオススメできません。面白いからなおさら残念です。
もう一度誰か訳し直してくださったら読み直したい本です。
理由はただ一つ、訳が問題なのです。
他の方もレビューに書かれていますが、普通ならあり得ない言い回しを利用するというのは雰囲気ぶち壊し。訳し方が古いと言うわけではありません。とにかく読みにくい。
全体的に難解さを増してくれている訳に負けて、ずっと放置していました。その後全部読み切りましたが、殆ど意地でした・・・
ところどころ面白い箇所で引き込まれる物の、描写の訳が解りづらく着いていけないこともしばしば。何度読む手が止まったことか。
なので翻訳物が苦手な人にはオススメできません。面白いからなおさら残念です。
もう一度誰か訳し直してくださったら読み直したい本です。
薔薇の名前 The Name of the Rose [Blu-ray]
近代海外ミステリーの傑作と呼ばれるウンベルト・エーコ原作の同名タイトルの映画化。
大変な長編を2時間強の上映時間にまとめた脚色もお見事!
この映画の最大の魅力は、14世紀という中世ヨーロッパ(イタリア北部)のとある修道院という舞台設定を
見事なまでに再現した「美術」「セット」「衣装」です。
我々はもちろん「その時代」を知るよしもなく「再現」といっても本当のところはわかりませんが、
「そうとしか思えないリアリティ」が突きつけられます。
この映画の製作に関しては、ジャン=ジャック・アノー監督の演出のもと、『神学』の権威であるボローニャ大学
などの中世史のエキスパートの面々が、数々の資料や絵画などをヒントに、修道院そのものから、部屋、家具、
調度品、衣装などを徹底的に作り上げたとのこと。(舞台となる修道院もセットなんですって?)
全景も近景も、どのシーンも完璧に作りこまれた映像は、ほとんど奇跡です。
修道院内での晩餐のシーンは観ただけでため息が出ます。
大事な役割を果たす宗教本の1冊1冊も見事なまでに素晴らしく、1冊欲しくなるほどです。
極め付きは物語の核となる「図書室」の造形です。
エッシャーの「だまし絵」のような迷宮のセットは感動すら覚えます!
そして、それらを「絵」にする撮影の工夫!
蝋燭の灯りだけで撮影された「中世の再現」は、それだけで2時間強の上映時間を片時も退屈せずに鑑賞する
に値します。
主演のショーン・コネリーをはじめ、出演俳優も皆そろって見事な演技!(修道院長役のミシェル・ロンスダール
は、映画「ジャッカルの日」のルベル警視です:渋!)
キリスト教がまだ多くの宗派に別れており、一定のまとまりがなかった時代。宗教論争も映画の中で重要な役割
を果たしますが、出来るだけ「歴史」に詳しくなくても、ちゃんと鑑賞できるように練られた脚本もお見事!
「知りたい」と欲することで、次々と起こる殺人。修道院という密室劇という設定も、ミステリーとして極上です。
またこの映画は限りない「女性賛歌」という一面も備えています。
大変欲張りな、盛りだくさんの要素を詰め込んで、しかも物語が窮屈でないというのも驚きです。
多くの謎に包まれた中世という時代に果敢に挑んだスタッフ&キャストに心から敬意を評します。
まだご覧になられていない方は、是非、この極上の2時間強に足を踏み入れてください。
大変な長編を2時間強の上映時間にまとめた脚色もお見事!
この映画の最大の魅力は、14世紀という中世ヨーロッパ(イタリア北部)のとある修道院という舞台設定を
見事なまでに再現した「美術」「セット」「衣装」です。
我々はもちろん「その時代」を知るよしもなく「再現」といっても本当のところはわかりませんが、
「そうとしか思えないリアリティ」が突きつけられます。
この映画の製作に関しては、ジャン=ジャック・アノー監督の演出のもと、『神学』の権威であるボローニャ大学
などの中世史のエキスパートの面々が、数々の資料や絵画などをヒントに、修道院そのものから、部屋、家具、
調度品、衣装などを徹底的に作り上げたとのこと。(舞台となる修道院もセットなんですって?)
全景も近景も、どのシーンも完璧に作りこまれた映像は、ほとんど奇跡です。
修道院内での晩餐のシーンは観ただけでため息が出ます。
大事な役割を果たす宗教本の1冊1冊も見事なまでに素晴らしく、1冊欲しくなるほどです。
極め付きは物語の核となる「図書室」の造形です。
エッシャーの「だまし絵」のような迷宮のセットは感動すら覚えます!
そして、それらを「絵」にする撮影の工夫!
蝋燭の灯りだけで撮影された「中世の再現」は、それだけで2時間強の上映時間を片時も退屈せずに鑑賞する
に値します。
主演のショーン・コネリーをはじめ、出演俳優も皆そろって見事な演技!(修道院長役のミシェル・ロンスダール
は、映画「ジャッカルの日」のルベル警視です:渋!)
キリスト教がまだ多くの宗派に別れており、一定のまとまりがなかった時代。宗教論争も映画の中で重要な役割
を果たしますが、出来るだけ「歴史」に詳しくなくても、ちゃんと鑑賞できるように練られた脚本もお見事!
「知りたい」と欲することで、次々と起こる殺人。修道院という密室劇という設定も、ミステリーとして極上です。
またこの映画は限りない「女性賛歌」という一面も備えています。
大変欲張りな、盛りだくさんの要素を詰め込んで、しかも物語が窮屈でないというのも驚きです。
多くの謎に包まれた中世という時代に果敢に挑んだスタッフ&キャストに心から敬意を評します。
まだご覧になられていない方は、是非、この極上の2時間強に足を踏み入れてください。
吉松 隆 : プレイアデス舞曲集 2
一言で言えば「心が洗われる」音楽です。
いわゆる「現代音楽」のカテゴリーには入れたくない。
個人的には、ドビッシーやキースジャレットのピアノソロに通じるものを感じる。ジャンル分類は、無意味です。
ちなみに、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」の音楽担当は、吉松隆。
このアルバムの中の曲も、ときどき流れてきます。
いわゆる「現代音楽」のカテゴリーには入れたくない。
個人的には、ドビッシーやキースジャレットのピアノソロに通じるものを感じる。ジャンル分類は、無意味です。
ちなみに、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」の音楽担当は、吉松隆。
このアルバムの中の曲も、ときどき流れてきます。