本書は「
明治維新」を、「柔構造」と言うキーワードを中心に、江戸・明治を不連続と捉えず、「江戸時代に醸成された経済システムと公議制」が世界に類の無い柔軟性・多目的性に富んだ明治の産業政策を可能にした、とする画期的な維新論。本書で言う「柔構造」が、個人・単一組織による独裁的「硬構造」よりも、複数目標同時達成能力、持続性、適応力において遥かに強靭である事を具体例を挙げ主張している。尚、著者の一人は所謂途上国の経済開発協力に携わっており、その経験が本書の発想を産んだ由。そして本書の目的が、そうした国々の開発・民主化に「柔構造」モデルを当て嵌め、相対化する事に依って、新しい構想を見い出して行きたいとの現代的意義にある点に好感が持てる。
本書では題名通り、1858〜1881年を開国の衝撃を受けての"変革期"と捉えている。明治革命にはカリスマ的リーダは存在せず、幕末の「富国」、「強兵」、「議会」、「憲法」の四目標の並立的競合、リーダ間の合従連衝、目標の優先順位の可変性に依って達成されたとする。藩単位の富国強兵から、政府主導の「殖産興業」へ。この際、所謂不平士族の扱いに課題はあるものの、「富国」と「強兵」は分離され、財政的競合目標となる。これが第一の柔構造。第二の柔構造はグループ間の合従連衝で、開発派(大久保)、外征派(西郷)、議会派(板垣)、憲法派(木戸)の四派が連携と牽制を繰り返しながら政策を実施した。この合従連衝の成功は、幕末時に成立していた経済状況と藩間交流が醸成したと言う。第三の柔構造の可変性は、板垣でさえ一旦は征韓論を唱えた事からも分かる。これに続く四派の合従連衝・盛衰の考察は史実に基づいた丹念なもので説得力と読み応えがある。
明治維新前後の人間関係や勢力図は分かりずらいと思っていたが、それを「柔構造」と言うキーワードで、江戸・明治の継続性を含めて再構築した画期的な論考。