温かい家庭生活を描いた小説に力を発揮してきた作者の、それらの小説の続編的作品である。しかし、これは小説というより随筆の形になっている。子供たちが結婚し、もう長く二人きりで暮らすようになっている夫婦の生活を自伝的に記述している。子供たち、孫たち、知人たち、近所の人たちとの心温まる交流と、夫婦の静かでのどかな暮しは、随所に記されている主人公(作者自身)の感謝の言葉が象徴しているように、いかにも満足なものである。文学作品に鋭い洞察や問題提起を求める向きには、武者小路実篤的なおめでたさと写って、飽き足りないかも知れない。だが、何かと暗いことの多い今の時代に、このような平和な読み物に触れ、自分の晩年のあり方――それは若い間の生き方と無関係ではありえない――について考えてみるのも、
よいことであろう。作中、説明が重複的なところがあるが、これも晩年の主人公の叙述らしい雰囲気を出しているものと見ることができよう。