成田空港のツアー客用カウンターを舞台としたお仕事小説。本社から空港所に飛ばされた三十路手前の男が主人公。客を送り出す最前線でありながら、収益には貢献せず、スキルアップも望めない。「俺はこれからどうなるんだ?」
そんな現場だけど、客と直接コンタクトする場所ならではのエピソードにあふれている。数々のトラブルをさばく
スタッフもバラエティに富んでいる。主人公の恋路をめぐるエピソード織り込んだ連作短編スタイルは、まさにテレビドラマ向き。
旅行業界の専門用語をどっさり入れて業界の雰囲気を出し、一般人の目に触れる場所であるだけにイメージは湧きやすいんだけど、ひとつひとつの描き込みが薄くて、これをもってこの業界の魅力を伝えることにはなってないような気がする。
八月のマルクス・・・・
タイトルだけだと乱歩賞によくある冷戦時代を舞台にした国際謀略系ミステリーかと思ってしまうが、資本論のマルクスではなくグルーチョの方、マルクス兄弟のマルクスなのだ。
という訳で元お笑い芸人がバラエティ番組での事故を巡って相方の死の真相を探っていくという異色のハードボイルド系ミステリー。
乱歩賞に一定数あるハードボイルド系ははっきり言って嫌いなのだが、本作は芸能界を舞台にしておりなかなか事件の背景が面白いため結構面白く読めた。
乱歩賞によくある作者の職業的経験と専門知識を駆使した系ではなく、著者自身も芸能界にいたこともない人なので、あまり突っ込んだ内幕業界ものらしい深みがないのは否めないが、乱歩賞作品としては標準的な出来の作品だろう。