ロックで、純文学で、青春で、ロマンチックで、センチメントで、処女作らしいほとばしる情熱が感じられる秀作である。文庫本にのみ掲載された「おれのユッキー」がまた良くてさ、何で世の人々は、伊坂幸太郎はあんなに読むのに桜井鈴茂は読まれないのだろう。もちろん、伊坂幸太郎も面白いけどさ、「読み返してまでは」感が漂うよね。「アレルヤ」は、
タッチは軽いけれども、読み返してしまう。日本人がだめなのか、売り出しを本気でやらない出版社がだめなのか、それとも俺がだめなのか??
「アレルヤ」から2年半、僕はずっと桜井鈴茂の本を待ち続けた。今回は6人の様々な人々の人生の断片が描かれている。と言ってもそこに盛られた毒はハンパじゃなかった。みんな何かにハマり、何かを諦め、何かと戦い、何かにすがる。何かに対してはクズみたいに邪悪な自分と、何かに対しては天使みたいに純粋な自分を抱えてる。 読みながら僕は吉田修一の「ランドマーク」や 村上春樹の「アフターダーク」と同じような感触を思った。でも彼らの描いた世界は底なし沼のように僕ダークな気持ちにさせたけど、この本を読んだ後には不思議な光がさしている。もしくは角田光代が言うように「びっくりするほど美しい景色が見える。」自分の中の悪魔と天使の戦いは日常のようにづっと続く。どこかで戦争が起きようが、大地震が来ようと、気付けば日常という戦いに戻っている。この本を読んで、僕らにとっては「日常」こそが闘いなのだということに改めて気づいた。 「終わりまであとどれくらいだろう」と僕も思う。でも多分、終わりはこない。 だからみんなに天使に勝って欲しいと思う。少なくとも負けないで欲しい。