広津和郎は大正から昭和にかけて活躍した作家・評論家。特にその文学評論は評価が高い。晩年は十余年にわたって松川裁判闘争に尽力。被告全員の無罪をかち取るのに大きな役割を果たした。「同時代の作家たち」は彼の文壇生活にかかわりのあった作家15人についての覚書きである。15の短編の中で折にふれて広津の眼に映った芥川龍之介、宇野浩二、志賀直哉、牧野信一などの興味深い一面が、辛辣ではあるが言いようもなく暖かさを含んだ筆致で語られている。なかでも発病した宇野浩二を見舞いながらまもなく自殺を遂げた芥川龍之介を悲痛な思いで追憶した「あの時代」や、文学者ではないが、大正のアナーキスト大杉栄との一夜の淡い交流を描いた「その夜の三人」などが印象に残る。巻末の
紅野敏郎の解説も良い。