著者はイギリスのデジタルメディア・プロデューサーでジャーナリストだそうだ。処女作になる。
原題”The English Monster”。
文庫で上下2巻なのに、読了に1ヶ月を費やした。
決して難解な書物じゃなく、歴史ミステリー・フィクションなんだけど、
ぼくが歴史的バックグラウンドの知識に欠いていたからなのだろう。
ぼくが教えてもらった歴史では、エリザベス朝は栄光に満ちていて、イギリスは産業革命によって栄え、
18世紀から200年以上、世界をリードしてきた。
アフリカの黒人を奴隷として捉え、”新大陸”の労働力として
スペインや
ポルトガルに売りさばき、
富を蓄えたからこそ、無敵艦隊を撃破し世界の制海権を確保し、
ニュートンですら奴隷貿易に出資していた、なんてことは、スルーしていた。
アルマダで
スペインを破ったイングランドの英雄フランシス・ドレイクすら、
奴隷貿易で頭角を顕したことなど、現代のイギリス人ですら素直に認めたくはない史実らしい。
第二次大戦で
ドイツからの空襲を受けるさなか、チャーチルが拘り続けたのは、
植民地の温存だった。
参戦の暗黙の条件として、植民地の解放を示唆したルースベルトに先見の明があったかというと、
それもまた、損得勘定だったに違いない。
リンカーンの奴隷解放が、損得勘定から発せられたように。
本書は「ラトフリク街道の殺人事件」の犯人探しがストーリーの軸で、推理小説としても楽しめる。
司法の”
調査”だけではなく、警察による”捜査”が必要となっていく転換点の事件だったのだろう。
イングランド史上最初の刑事とも言えるチャールズ・ホートンのこれからの活躍も楽しみ。
内容の濃い、魅力的な小説だった。
そして、
ロンドン−ワッピング、シティ−の(呪われた)繁栄の影に、
イングランドの怪物の存在があることを疑い続けなければなるまい。