以前、テレビで見たことのあるアニメ―ションの「
ムーミン」の世界を知りたくなって、
ムーミン・シリーズの一冊、『たのしい
ムーミン一家』(原題は『魔物の帽子』、トーベ・ヤンソン著、山室静訳、
講談社文庫)を読んでみた。
著者自身の手になる
ムーミンたちが登場する挿し絵は、アニメーションと同じように、ほのぼのとした印象を与えるが、文章のほうは結構辛口である。例えば、「こんなひにくをいったのは、スナフキンにとっては、どうしてみんなが持ちものをやたらにほしがるのか、わけがわからなかったからです」、自分の人生を嘆くヘムレンさんに対し、「『いきるってことは、平和なものじゃないんですよ』と、スナフキンは、まんぞくそうにいいました」、持ち物の交換を持ちかけるスニフに対し、「『おまえが死んでからね』と、
ムーミントロールはいいました」、「『見てくれ、わしのねどこはずぶぬれだぜ』。こうヘムレンさんがいっても、『そりゃおきのどく』といったきり、スノークはねがえりをうって、むこうをむいてしまいました」、「すると、ヘムレンさんのむねには、ふくしゅうしてやりたいような気持ちが、むらむらわきあがってきました」、「『たいしたもんだ。じつにりっぱなものですよ』と、スノークはひにくをいいました」、「ヘムレンさんは、まだなにかいおうとしましたが、スナフキンが、そのむこうずねをけとばしました」、「
ムーミンパパは、ふつうの子どもとはすこしちがっていて、だれにも愛してもらえなかったのでした。大きくなってからも、おなじことでした。あらゆる意味で、おそろしい日々をおくってきたのです」――といった具合である。こういった描写が、この童話に陰翳を添え、奥行きを与えているのだろう。
一方、
ムーミンたちが暮らす
ムーミン谷が危機に瀕すると、「(
ムーミン)パパは、きっぱりといいました。『それじゃあ、われわれも武器をとらなくちゃならん。それから、家具をひっぱっていって、戸口をしっかりとふさぐのだ。そんな大きいモランなら、たしかにきけんかもしれん』」、「
ムーミンパパは、こういったのです。『われわれは、あくまできみたちをまもってやるからな』」――と、力を合わせて立ち向かうのである。
いろいろな要素から成り立っている
ムーミン物語は、著者が考え出した架空の動物たちが繰り広げるユーモア溢れるファンタジーの世界なのだ。因みに、私が一番好きな登場キャラクターは、三角の帽子を被った、孤独と自由を愛するスナフキンである。