表題作「三匹の蟹」は、アメリカ(多分)で生活する日本人の家族。主人公は、主婦の由梨。閉塞感というよりは、だらしなさが濃くて、気持ち悪くなるくらい。特に夫婦のやりとりが。 最近書かれた作品を言われても違和感がないくらい現代的で、昭和40年代前半に書かれたと思えないくらいです。
老子の言葉 有物混成 先天知生 寂兮寥兮
物あり混成し 天地に先立ちて生ず 寂たり寥たり
天地が生じる以前に、混沌として区別の出来ない物があり、それは寂寥としており、と続いていくそうです。
「どっちみち、どの人間も、他人には決してわからない、いや、自分自身でさえ不可解なものをもて余してたたずんでいるにすぎないと思うのであった。」と、あるとおり、「
南極の氷山の割れ目を覗き込んでいるような寂寥感」を抱えながら、人間同士の営みを続けることは果たしてどこまで虚しいことであろうか、かたちもないところにこそ真実があるともいえる奥深い小説でありました。