リチャード・ボナ、2003年の作品。
「ジャコ・パストリアスの肖像」を聴きベーシストを志した過去。
ザヴィヌルシンジケートやパット・メセニーグループでの活動。
それらのイメージするところのものは正に超絶技巧ベーシストだが、
実際ジャコ・パストリアスの再来と歌われる超絶技巧のベーシストである。
しかし、彼のソロ作品を聴いてそれを期待すると
全く想像してない展開が待っているのだ。
本作品は全12曲(うち1曲は
ボーナストラック)中
実に9曲が歌モノで、インストロメンタルは3曲しか存在しない。
そのことが物語るのは、
この作品がベーシストのソロアルバムである一方、
ベースプレイを主眼とした作品では無いということである。
「Playground」など、ボナのベースプレイを楽しめる曲も
入っているが、作品全体としては寧ろボナの歌声や
ゲストのサリフ・ケイタの歌声のほうがメインに感じられる。
リチャード・ボナが作品の製作に当たって最も心掛けたのは
「シンプルに音楽を届けること。そして、
指の動きよりも心の動きに耳を傾けること。」
その結実した作品が本作品なのだ。
尚、邦盤には
ボーナストラックとしてジャコ・パストリアス作曲の
「Liberty City」がトラックされている。
この作品は15分近くにも及ぶライブものの大作で、
リチャード・ボナの超絶技巧ベースプレイが満喫できる作品。
本来なら喜ばしいトラックなのであるが、
先述のコンセプトからは著しく外れた熱い演奏であり、
少なからず違和感を感じてしまう。
全く別のコンセプトのトラックと割り切って聴くのが
良いかと思われる。もちろん演奏自体は素晴らしく
さすがとうならせる名演である。
メセニーグループは当初、メセニー、ライル・メイズ(key)、マーク・イーガン(b)、ダニー・ゴッドリーブ(ds)、というメンバーだった。ボーカルを加えてワールド・ミュージック(無国籍?)色が強まり、「Offramp」(出たときの邦題は「愛のカフェオーレ」)からベースがスティーブ・ロドビーに変わり、「First Circle」からドラムがポール・ワーティコになっている。このリズム体で黄金時代が始まり、「Still Life」(87年)でメセニー・グループ路線の完成をみることができるだろう。その後のメセニーグループはリズム体を固定して音楽的発展を図っているように思えたが、「Speaking of Now」ではポール・ワーティコ(ds)を解任しアントニオ・サンチェスを加え、さらにボーカルにリチャード・ボナを迎えている。これらのメンバーを加えてさらに地平が広がったと、メセニーはインタビューで答えている。
メセニーの目指すのはいわゆる「ワールド」な音楽ではなく「シンフォニー」のようだ。アーティスト=パット・メセニーに敬意を表し、本作を推する。