自由貿易の罠 中野剛志 青土社 2009
中野氏(1971−)は官僚である。そして、彼は書く、自分が大学教授であろうが、新聞記者であろうと、あるいはダンサーであろうと、本書に書かれたような主張をするつもりであると。(あとがきより)
ご自身の所属での方針がどうであり、自身の主張をする、このことが覚悟あるエリートの姿だと思う。Agree to disagreeを理解している人たちが議論することにより道は開けていくのだと願う。
本書は主流経済学という流れに保護主義(貿易)という石を投げ入れてみることを主張するものだろう。
中野氏は書く。本書が擁護する保護主義は、他国の利益を収奪するという攻撃的なものではなく、その反対に、他国による利益の収奪から自国の利益を防御することを目的とするものである。また、保護主義こそが、自国の利益だけではなく他国の利益をも増大することができると主張するものである。
備忘録的にメモ
今の保護主義の台頭をみて、世界恐慌の深刻化や世界経済の崩壊を連想するのは杞憂に過ぎない。
エマニュエル・トッド「経済幻想」(1998)で自由貿易は経済成長を妨げると論じ、保護主義への回帰を主張。(トッドは
フランスの人類学者で人口論でも有名)
自由貿易は、成長を窒息させ普通の労働者の賃金を押し下げるとしても、社会上層の集団に法外な利をもたらす。(トッド 1992)
国際競争力の強化を口実に、実質賃金が抑制。(企業は利益をあげるかもしれないが)
保護主義の採用が、貿易を拡大する(トッド、2009)
グローバルインバランス(アメリカは消費に特化、アジア等の新興国は生産、投資、輸出に特化)、これが2008年の金融危機の構造的要因との指摘もある。
保護主義は、財政出動と同時に実行されるとき、近隣窮乏化政策とはならない。
主流派経済学が、非現実的な仮定に基づく理論モデルを有用だと信じている理由、「道具主義」と「合理主義」という立場
バグワティの「保護主義」
金融機関の不利にならない様なロビー活動「ウオール街・財務省複合体」(軍産複合体にならう)
主流派経済学の産業政策論 クルーグマン国際経済学
プラグマティズムは「万能でない政府が、どのようにして政策を実行すべきか」考えるためには適した哲学
進行形の計画の一連の過程のなかで発生し、発達していくものこそが、「社会的知性」
社会的知性を発生させるコミュニケーションの場とし決定的に重要なのは、最終的には地域共同体である、とデューイは力説する。
有能な政府とは、政策の
エキスパートから構成される。
自由貿易パラダイムから保護主義パラダイムへの大転回の予兆は、すでに現れて始めているそれが見えないのは、頭を砂の中に埋めた駝鳥のように、自由貿易のドグマにしがみついているからではないだろうか。
序章 保護主義覚醒
第1章 リカードの罠
第2章 経済神学
第3章 崩れ落ちる自由貿易神話
第4章 産業政策のプラグマティズム1
第5章 産業政策のプラグマティズム2
第6章 自由貿易からの自由