リフレ政策(インフレ期待の醸成)の正当性を再認識させられた階段的書。
「自由貿易がもたらすグローバル経済の構造は、アメリカの貿易赤字と新興国の貿易黒字という「グローバル・インバランス」を現出させた。
このグローバル・インバランスが、新興国からアメリカへの過剰な資金流入とバブルの発生をもたらし、2008年の世界的な金融危機の構造的な原因となった。
金融危機の勃発後、各国は、デフレを阻止するために、大規模な財政出動を余儀なくされている。
こうしたなかでの自由貿易は、デフレを促進する効果がある上、財政出動の効果を海外へと流出させ、内需刺激効果を減殺するおそれがある。
税を原資とする財政出動の恩恵が海外に流出するようでは、民主主義国の政府は、国民に説明責任を果たすことができない」
「グローバル・インバランスをもたらしたものは、先進国を「底辺への競争」へと巻き込んでいく、グローバルな自由貿易だったのである」
「自由貿易によるデフレ圧力という現象は、1980年代以降に進展したグローバリゼーションによって、顕著にみられるようになった」
著者は「危険なのは、自由貿易のデフレ圧力を放置あるいは促進すること」だと述べているが、
野口悠紀雄氏等の "輸入デフレ論" は実証的に論破されている・・・
デフレ/インフレは貨幣的現象である以上、デフレを阻止する「ティンバーゲンの政策割当」は、金融政策のはずである。
> インフレ、デフレは金融政策で解決できる問題です(『Voice 2011年2月号』若田部昌澄氏)。
"流動性の罠" の罠?
アメリカの低
金利政策(p47)の弊に言及した箇所もがあったが、
デフレ期待をインフレ期待に反転させる金融政策(合理的期待形成 by 量的緩和、国債の日銀引受)の検討が無いのはなぜだろうか?
著者の固定観念・・・
「世界デフレ時の為替の切り下げによる輸出促進政策は、通例、保護主義とみなされているが、本書は、
そのような攻撃的な近隣窮乏化政策まで、支持するわけではない」
??? 金融政策は、正当な政策手段である。
「財政出動の恩恵が海外に流出する(マンデル・フレミング効果)」事態を避けるためにも、
金融政策(量的緩和)は必須のはずである。
>「連邦準備制度が十分な通貨を供給していれば、大恐慌は起きなかったはずだ(ベン・バーナンキ氏)」
「底辺への競争」を招いているのは、グローバリゼーションではなく、
日本銀行の金融政策の失敗に次ぐ失敗(「日銀の政策は"too little,too late"だ(浜田宏一氏)」)である。
「保護主義的措置は、絶対的な害悪ではなく、むしろ自由貿易がもたらす深刻な問題を解決するための有効な手段である」
保護貿易の果実については、小室直樹著『国民のための経済原論2 アメリカ併合編』で学びました。
>> 比較優位説は国内分業論でもある(サムエルソン)。
> 有効需要に応えられる有効供給があるときには、経済は健全に成長していく。
有効需要が縮小傾向にあるデフレ(モノ・サービスよりもカネ)期待の定着下では、
財政政策の効果が海外に逃避しない保護貿易の果実といったところで、
脱デフレ⇒ 経済成長(カネよりもモノ・サービス) に至るとは思えない。
肝心なのは、インフレ期待(カネよりもモノ・サービス=有効需要)の醸成なのだから・・・