直木賞受賞作であり,
作者の小池真理子さん自身,この小説を着想したときのことを
「神が降りた」と言っている。
この作品のプロット,たとえば,作中小説を背景音楽のように使ったり,
核となる事件から何十年後かの様子を第三者に語らせる手法は,
後の彼女のほかの小説でも再び使われており,
彼女の小説世界が集約し,凝縮したような作品である。
恋愛の対象となる男性が,理知的で,病み疲れたような美しさを持っているのも
いつものとおりだなあ,と満足させる。
内容は,作中小説「ローズサロン」さながら,退廃的・官能的な性の営みを繰り広げる
主人公たちの関係が,ある日,その1人が現実的な普通の恋愛に目覚めたことから
崩壊する,というもの。
そりゃ,退廃的・幻想的な世界はいつかは崩壊するじゃないか,それなのに
幻想世界をいつまでも現実のものとして維持したいと願い,しがみつこうとするあまり
気が狂ったような行動をとったこの主人公はいったい何者だ,
とやや冷めた目で見てしまい,★をひとつ減らそうとする私は,
この小説を読む資格がなかったのかもしれない。
しかし,そう言いながら他方でこの幻想世界の結末の付け方に感服もしている。
この小説の設定は,70年代の学生闘争の時代であり,
前半,主人公の女子大学生の周囲にも,革命マルクス運動だのの理想世界を夢見て闘争する
学生がたくさん出てくる。
その学生運動を終結させ,現実に引き戻した事件が浅間山荘事件であり,
同じ日に,主人公の狂気の行動により,主人公らの退廃世界も終結する。
このあたりの二重唱のつむぎ方はとてもうまくて,小説としての完成度が高く
さすがだなぁと思った。