伊勢谷クンと是枝監督の、なんとも言えない世界が大好きで、当時映画館へ足を運びました。あえて演じていないだろう伊勢谷クンのそのまんまなところも好きだったけど、ARATAクンのサイレントブルーのシーンが一番好き。少し大人になった最近、ビデオで見てみるとまた違った受け方をしている自分に気付き、とっても好きな映画のひとつになりました。
HDカメラで撮られた本作は「活動写真」ではなく、あくまでPVの域である。だから浜崎あゆみの演技力がどうだこうだというべきものではない。行定監督も「実験映画」とメイキングで言いきっているし、どう浜崎あゆみを綺麗に撮るか、というのが目的だから。でもそこに
伊勢谷友介、
香川照之、中村久美などの一級俳優が加わることで、品格が出たのは確かである。それと何といっても撮影監督・篠田昇の光と影の芸術。本作はこれに尽きるだろう。スタジオでも群馬の森の中でも鮮やかな風景を描写し、かつ俳優をその中に溶け込ませる技術はやはり超一級だ。メイキングではその撮影風景や、今では聞くことのできない篠田自らの本作に対する取り組みや浜崎への感想が語られており、これだけで永久保存版である。行定監督も岩井俊二も、篠田昇亡きあとは以前ほどの作品を撮れていない。その意味でも映画ファンはこの作品を観るべきである。PVをカツドウ屋が撮るとどうなるか、その映像美を堪能してほしい。星5つはすべて篠田昇に捧げるものである。
初めから最後までドラマの世界にひきつけられた。ドラマの一つ一つのシーンの緊張感が高く、目が離せなかった。映像の撮り方もリアルな感じが出ていた。ドラマ作りという点において、「安っぽさ」から縁遠いと思う。音楽の使い方も
ジャズ風で変わっていたが、ドラマの緊迫感を巧く高めていた。
出演者では
伊勢谷友介の演技が個性的で、「白洲次郎という人物はこんな人物だったのだろう」と納得させるような演技だった。原田芳雄、岸辺一徳という、実力も存在感もある二人のベテラン俳優が共演しているのも今となっては貴重だ。特に原田芳雄は、顔の輪郭などは
吉田茂とはかなり違うが、雰囲気たっぷりに演じ切っていた。
中谷美紀の正子は、次郎の仕事に直接かかわる描写はないが、彼女の演技を通じて、次郎の個性がさらに際立っていたと思う(ラストのシーンに結実している)。
「白洲次郎」という人物は非常に個性的で型破りとも思えるが、このドラマは肯定的にとらえて描いている。DVDの中で「このドラマはフィクションです」的な表示があったが、それでも白洲という人物を通じて、戦中〜戦後の日本の政界の動き、GHQとの関わり、憲法制定の経緯などが描かれており、興味深い。白洲を肯定的に見るか否定的に見るかでこのドラマの評価も変わってくると思うが、NHKなりの一つの解釈として戦中〜戦後の混乱期をとらえた力作ドラマだと思う。