いとしこいしの漫才は、やすきよのそれを凌いでいるのは、周知の通りだが、兄弟で絶妙の間。ボケ、ツッコミは勿論、現代日本が誇る最高の漫才コンビである。この本では、彼らの生い立ちからデビュー、伝説の漫才作家である秋田実との出逢いが彼らの漫才を完成していくさまを見事にふたりの絶妙な会話でおもしろ可笑しく書きつづっているのが最高だ。是非ともお笑いに興味のある人は、勿論のことそうでない人にもお勧めしたい一冊である。もうこのような漫才コンビは、出てこないのではないかと思うのは、私だけだろうか。なぜなら、私は今のお笑いは反吐が出るほどつまらないからだ。
普段はあまり言葉に出して語らない感謝の気持ちを抱く対象というのは誰にでもあると思う。ぼくにとって「いとこい」師匠たちへの気持ちも、そんなもののひとつだ。
子供の頃に毎週みていたテレビ番組「がっちり買いまショウ」での名司会ぶりや、NHKなどで放送された漫才の数々は、多くの東京人にとっての、関西弁とのファーストコンタクトだったのではないだろうか。この本は、そんな「いとこい」へのオマージュを集めると同時に、「いとこい」の歩み、名作選で構成されている。雑多な構成というところが、こんご、もしかしたら始まるかもしれない「いとこい」研究の裾野の広さを予感されているかも。
驚いたのは、ご兄弟はお二人とも関東の生まれであること。父親は長野県出身の元警察官で、いとしさんは
横浜、こいしさんは川越で生まれている。その後、旅の一座などに加わったりしているうちに、兄弟漫才を結成、様々な紆余曲折はあるものの、売れっ子になっていく。お二人の歩みを読んでいると、決して自分たちが一番になろうとせず、かといって、わき道にもそれない「二番手の王道」を歩んできた良さがあらわれている。それが下ネタなどをやらない、「まるで東宝映画のような、都会的で洗練されたいとこい漫才」(p.45)を生んだのだと思う。
一番、面白かったのは、やはり「名作選」。感心したのが「つかみ」の出だし。どれもこれもスッと入っている。文章を書く上でも、いとこいのお二人のように、スッと入っていかなアカンと改めて教えられた気がする。