5月末にダン・タイソンのリサイタルを聴きました。オール・
ショパンプログラムでした。
その自己主張の少ない透明感のある音に感動しました。
ショパンの作品を作曲家の意図を大切に「何も足さない、何も引かない」でそのままに聴衆に届けるという姿勢が素晴らしいものです。ステージの態度も好感が持てました。
その後、彼の半生をまとめた「
ショパンに愛されたピアニスト〜ダン・タイ・ソン物語」(伊熊よし子著/ヤマハミュージックメディア)を読んで、ますます彼の音楽に惹かれるものがありました。
このCDは、演奏会のプログラムで知りましたが、会場では販売していませんでしたので、Amazonで購入しました。
3/4がダン・タイ・ソンの演奏です。6枚組のセットで内容がすごく、ソナタ・ノクターン・即興曲・
バラード・ワルツ・スケルツォ・前奏曲のそれぞれ全曲が入っています。ポロネーズ・エチュード・マズルカなどの有名な曲も含まれています。これで価格が3千円代です。
演奏は前にご紹介したようなピュアなもので、何度聴いても癒され慰められます。
今年は
ショパン生誕200年のメモリアル・イェアーです。このCDを手元に置いて、心ゆくまで
ショパンを味わいたいと思っています。正に贅沢な「座右の
ショパン」を手にした気分で感激しています。
1980年、
ショパン・コンクール一位。1958年7月2日生まれ。母はピアニスト、父は詩人(離婚)。タイ・ソンの名は父が付けたもので中国山東省の泰山からとったもの。漢字では'ケ泰山と書く。
アメリカの
ベトナム爆撃の最中、ハノイからスェン・フ村に疎開、紙製のピアノで鍵盤練習したというエピソード。ハノイ音楽院時代にアイザック・カッツに師事、ソ連に19歳のときに留学、モスクワ音楽院でウラジーミル・ナタンソン、ドミトリー・バシュキーロフに指導を受ける。
モスクワ音楽院はネイガウス、ゴリデンヴェーゼル、イグムーノフ、フェインベルクの伝統があり、ソンは
ロシアピアニズムを継承。今、一番弾きたい作曲家は? の問いに「即座にメンデルスゾーン」と(p.169)。
現在は、東京国立音楽大学の招聘教授、モントリオール大学で教鞭をとり、世界各地で演奏活動。。自分の音楽論の心境を語った部分(pp.168-175)は貴重。
本書は著者のインタビューによって世に出た。「自分を主張することを極力控え、作曲家に寄りそうことをモットーとしてきた彼(は)、演奏で明確な自己表現をしている。何と言う変化だろう」、2002年の来日公演を聴いて著者は本書の執筆を思いたったという(p.6)。
私がダン・タイ・ソン氏のピアノと出会ったのは氏が
ショパンコンクールで優勝した直後でした。
私はまだ小学生でしたが、涙が勝手に出てきて心臓が高鳴ったのを覚えています。
その頃から20年以上経ちますが、ようやく何故彼の演奏が好きなのかが分かった気がします。
若々しく素直に表現された
ショパン、広がる未知の世界への期待。
ショパンの歴史だけならずソン氏の未来への可能性までが感じられる演奏でした。
ソン氏もピアニストとして成長を続けていますが、若かりし頃の氏のこのプログラミングや演奏が、沢山の思い出を呼び起こさせてくれて感慨深いです。
有名な曲ばかりですので、人に
ショパンを勧めるとしたら迷わずこの一枚ですね。