この映画について何か言うのは難しい。政治的宣伝映画ともとれるし、反米映画でもあり、反戦映画でもある。
そしてドキュメンタリー映画でもある。華氏911は今まで見たドキュメンタリーの中で抜群に面白かった。「戦争という重いテーマを、コメディ
タッチにすべきでない」という意見を度々見かけたけれど、コメディでなかったら見なかっただろうと思う。それに、コメディ
タッチなシーンでも、徹底的に考えた末の表現というか、マイケル・ムーアの真摯な姿勢が伝わってくるような気がした。
重要な法案でも議員たちはほとんど読んでいないという事実に、監督自らチリ紙交換のように拡声器で法案を読み聞かせに出かけたり、イラクで死ぬアメリカ兵のほとんどが貧困層の若者であることを踏まえて、上院議員の子どもを軍隊に入れるべきだと、議員を直撃して署名を迫ったり。これらを「バカだなー」と笑い飛ばすのもまた一興。「ここまでやると鬼気迫るものがあるな」と感心しながら見るもよし。映画館では、声を押し殺して必死に涙をこらえる年配の男性の姿もあった。とりあえず体験してみたほうがいい。某総理のように「偏った映画は嫌いなので、見ない」と言って歌舞伎に行くのはもったいない。