たいへんな力作です。最近の邦画の中では群を抜く出来の良さです。
良いと思えるところはたくさんありますが、何といってもギャグが秀逸です。とにかく笑えます。海外のコメディ映画にも全く負けません。10~20代の方なら、まず間違いなくこの笑いを楽しめるでしょう。監督のギャグセンスの素晴らしさを感じます。
この監督のセンスの良さは、笑いだけでなくキャスティングにも現われています。主人公の桃子の役に
深田恭子を当てたのは、まさに正解だったと思います。幼い顔立ちとロリータファッション、マイペースでおっとりした性格のイメージ。この上なく役柄にぴったりでした。一方で
土屋アンナも熱いヤンキーを無理のない自然な感じで演じていて、不器用さ(頭の悪さ?)をもろに出しながらも、とてもかっこいい。結果として、性格も価値観の全く対照的な2人が見事にできあがっています。
この2人以外にも、希木樹林や
阿部サダヲ、宮迫博之といったマニアックな顔ぶれが揃い、彼らの強烈な個性も遺憾なく発揮されています。不気味なくらい面白いキャスティングです。
しかしそれ以上に素晴らしいのは、この個人主義の浸透しきった現代に生きる思春期の若者の心の動きが、それなりに丁寧に描かれていることにあります。つまずきや悩み、何かに向かって熱くさせる若さのエネルギー、性格や価値観の違いを超えて互いを理解し、関わりあってゆく姿。本当に良質な青春映画だと思います。単なるお笑い映画で終わらないこの点が、もっとも評価できるところです。
100分ちょっとの長さなのにストーリーは濃く、クライマックスの盛り上がりなどの作りも本当によくできています。設定上これはありえないんじゃないの?って思う瞬間もありましたが、コメディドラマであることを考えれば許せるでしょう。文句なしの5つ星作品です。
多数のCMでも活躍している
ファッションモデル・女優の高橋マリ子の初主演作。
モデルでもある高橋マリ子さんを中心に据えた美しい映像とその風景音
(雑踏の音、雨の音、電車の音、など)で構成されているすごく静かな作品。
セリフもBGMも少なめ。
ストーリーは「世界の終わり」という名の雑貨店を中心にした少女
(高橋マリ子)とライター(
西島秀俊)のラブストーリー。何となく世の中
から浮いた感じのライターと、学校や自宅にも居場所のない少女が雑貨店で
出会い、お互いの共通点を感じていく。
ストーリーより、映像に関心がある人向けの作品だと思いましたが、
高橋マリ子さんのファッションは一見の価値ありです。
アマリリス、いや、
アリスセイラーを取巻くキーワードは枚挙に暇ない。
EP-4、のいづんずり、ボアダムズ、安田謙一、保山宗明玉、嶽本のばら…関西のアンダーグラウンドシーンを少しでも紐解けば、必ずと言っていいほど彼女の名前に引っ掛かるであろう。が、裸のラリーズやかつてのEP-4同様(近年CD化されているので、聴くべし)、情報ばかりが先行して肝心の音楽性が見えてこない側面もあった。
本作は、
キャプテンレコードから'89年にリリースされた「アマリリス名曲大全」をベースに再編集し、さらに
アリスセイラーとEP-4の佐藤薫監修によるリマスタリング、「黒人と私」別ヴァージョン、「いなかの朝」の未発表音源を加えたものである。
オケ自体は、EP-4の薫陶を受けたアブストラクトなノイズ混じりのファンクや、ボアダムズに代表される90年代スカムシーンに継承されるヘタウマなパンク、そして即興演奏で溢れ返っているけど、ヴォーカルである
アリスセイラーは全くと言っていいほどエキセントリックな要素がない。
多重に声色を分けるわけでもなく、絶叫するわけでもなく、呪詛的でもない。さも童謡を歌うかの如く牧歌的(時にエロティックでもある)に振る舞っている。情報だけを基に聴いた者は、思いっきり拍子抜けするだろう。そして気付くだろう。山塚アイや戸川純と引き合いに出されるが、全く土俵が違っている事に。
むしろ、この「エキセントリックでない」こと「牧歌的な歌声」が彼女の強みなのである。
アリスセイラーは現在もソロでの弾き語りや、ULTRA B
IDEのH
IDEとのユニット(一時期COALTAR OF THE DEEPERSのwatchmanも参加していた)である「
アリスセイラー&ダメージディストーション」で関西をメインに活動している。私も何度かそのライヴを見ているから、初めてこの音源を聴いたのだが…今も変わらない声なのである。音楽がいくら変容しようとも大元になっている
アリスセイラーの「声」はエキセントリックに陥ることもなく、経験ゆえのあざとい装飾も衰えさえもなく、まるで昔から童謡を歌っているかのようにその「声」は我々の耳に入っていく。
ふと思ったのが、ブレがないというのはこういうことをいうんだな、と…。そもそもの感覚が「ズレている」政治家が「ブレない」と言っていたのとはわけが違うんだ、と。
音源に関してはもちろん申し分ないが(「お父さん」「母」「いなかの朝」にはみな驚愕すべし)、再結成後のギャルバン時代の音源も聴きたかったなぁ…。
これを契機に、山本精一氏とのユニット「ノアノア」や、
アリスセイラー&ダメージディストーションの音源化も望む次第です。