斑鳩王の慟哭 (中公文庫)
上宮王家滅亡 永遠の謎に包まれた聖徳太子一族の終焉。
この重く謎に包まれたテーマに挑むところがマニアックで好きだ。
本書を初めて読んだのはまだ10代半ばの頃。
近所の図書館で一気読みしてしまい、読み終えた後しばらく余韻が消えなかった。
それくらいインパクトがあった。
それから十年以上経って、あの面白い本の題名はなんだったっけかな〜と
思っていたら…自分で買い揃えた本が色々並んでる家の本棚を見ると
実に黒岩作品が多い。
古代好きなので必然的にそうなったのかもしれないが。
今更ながら他の黒岩作品を読みながら気付いた。
「あ、、、昔読んだあの本も黒岩先生じゃないか??」
なんでもっと早く気付かなかったのか。
ネットもあるし、いくらでも調べられたのに。
そんなこんなでまた買いました。
とにかく面白い。
淡々と物語は進んでいくのだが、『悲劇』のテーマをこれほどまでに
飽きさせず読ませてくれるのは黒岩先生ならでは。
聖徳太子に興味を持っている人はこれも面白いと思うよ。
天の川の太陽〈上〉 (中公文庫)
気持ちが大らかで、賢く、武道に優れ、同性からも憧れられた強い男性、大海人皇子。本当にかっこいいです。もともと、理想の男性像だった大海人皇子を、ここまで素敵に表現された黒岩先生に感謝です。
武勇という鎧の中の、戦略戦術家。大木をも力で倒す斧のような大海人皇子と、刃が鋭く尖ったかみそりのような中大兄皇子との兄弟という微妙な関係がとても面白く、深みがありました。
落日の王子―蘇我入鹿 (上) (文春文庫 (182‐19))
「紅蓮の女王」「天の川の太陽」に続く、黒岩重吾の古代史ものの第三作目にあたる。
蘇我入鹿といえば日本史上の稀代の悪人としての印象が定着している。なぜ黒岩は
入鹿を三作目の主人公に据えたのか?それは黒岩の現代ものを読めばわかる。彼は
悪をずっと描いてきた。といっても単純な悪ではない。黒岩は自らの随筆の中で「悪の
中に悲しみと善を、善の裏の醜と悪に反応する」と語っている。本書に登場する入鹿も
大悪党ではあるが、そこに男としての美意識があり、哲学がある。「野生の荒々しさと
知性が見事に交じり合」った傑物として描いている。乙巳の変についても、傲岸不遜の
逆臣・入鹿が成敗されたといったような単純な話にはしていない。それどころか入鹿と
中大兄皇子・中臣鎌子らが目指していた方向は同じであって、ただその主導権を誰が
握るのかをめぐっての争いであったとの認識に立って物語は進んでいく。(下巻に続く)