モーツァルトのピアノ音楽研究
「ピアノ音楽」となっているが、ピアノ曲全般ではない。ほとんどがソナタについてのページ。
モーツァルトにとって重要な協奏曲にもふれられてはいるが、ソナタに対すると比重的には1/10以下。
3重奏曲、4重奏曲などにはまったくふれられていない。
第1章はチェンバロから始まった鍵盤楽器の発展の様が述べられ、そこはよく調べてあり、わかりやすく的確。
それ以降は、モーツァルトの生涯を伝記的に追いながら述べているが、文章の重複があって読みづらい。
第6章は唐突にハイドンとモーツァルトの話になり、内容的には前の部分との単純な重複がまたあり、
本の品位と価値を低めている。
そうした難点はあるが、表紙のB級さに比べて、中身は堅実。
学習するモーツァルト
雨上がりの朝、モーツァルトの初期ソナタを聴く。至福の時である。まず変ホ長調K.282、身体の中を風が吹き抜けるようだ。2曲目からはクリスチャン・バッハとモーツァルトの同調ソナタが交互に披露される。バッハのト長調ソナタはシンプルで美しい。第二楽章の変奏曲が特に好きだ。3曲目は同じト長調のモーツァルトで、第一楽章ではバッハとのテーマの類似性が指摘される。なるほどそうか。第二楽章アンダンテの美しさはこの作曲家の真髄。4曲目、5曲目はニ長調のソナタ比較だが、大曲とも言える「デュルニッツ」ソナタ(完璧な演奏である)の部品がバッハから来ている、という指摘は、研究者でもあるこの演奏家ならではであろう。力を抜いてうっとり聴くのも良し、解説に導かれて「学習」するも良しの価値あるアルバムだ。
作曲家別演奏法 久元 祐子:著
★ロマン派4人の作曲家について、それぞれの代表作の譜例をあげ易しく読み解く。
【作曲家像】基本的な知識+作風や時代背景など。
【コラム】作曲家の逸話など。
【作品解説】短い譜例付き、具体的な演奏のポイントも。
これらの中で、適宜差し挟まれ語られるエピソードや著者の感じた思いが、読み進める上で非常に楽しく、作曲家や作品に対しての興味をそそられる。
★難しい楽曲分析に抵抗のある初級〜中級程度の学習者に最適の本だと思います。
また、本のサイズが小さめでページ数も多くないので、隙間時間に手軽に読むことが可能です。
「終わりに」として、現代のピアノ以外の鍵盤楽器についても書かれてあり、これもおすすめです。
ハイドンとモーツァルト
当時のフォルテピアノ(レプリカ)による演奏だそうである。当然音色は現代ピアノと大きく違うが、弦の弾けるような独特の音が直接伝わり、この楽器に合わせた録音のせいでもあるのか、小ぶりのサロンで鑑賞しているような雰囲気につつまれる。当時の楽器は良く言えば楽しく明るいが、悪く言えば平板といった印象があったが、表現の多彩さは現代ピアノに劣らず、低音部などには意外な深淵さが感じられる。なるほどチェンバロから現代ピアノに至る過渡期の楽器であるからだとすれば、それも頷ける。ただ聴くだけでも楽しく美しいアルバムだが、おそらく時代背景も含めた丹念な考察と解釈の成果でもあるのだろう、両作曲家のフォルテピアノに対する取組みの違いが演奏者自身による解説で論じられており、このアルバムの価値をさらに高めている。
青春のモーツァルト
その頃絶頂だった宮廷都市マンハイムに滞在した若き作曲家によるソナタ2曲に、良く知られたイ短調K310、さらに同時代人J.C.バッハの曲が挿まれた選曲は心憎く、演奏も音符の一粒一粒が生き生きとして素晴らしい。この演奏者は音の構成についての考察を非常に大事に演奏に活かそうとしていて、例えば、ある楽章がシンフォニックにどのような構成であって、仮に合奏曲であったらどんな楽器がそれぞれの音を担当するのが相応しいか、といったことを念頭に弾いているらしい。そのせいか、打鍵のタッチや強弱など微妙な味わいが随所に感じられる。このCDには演奏者による簡潔だが適確な解説が付いており、それに導かれて4つのソナタを聴き比べるのも面白い。もっとも演奏者自身が言うようにK.310のアンダンテやJ.C.バッハの作品17-5など、理屈抜きに聴けば心が洗われる美しさである。