ツナグ
初めての辻村体験がこの小説でよかった、と思う。
生と死をつなぐことは過去にもいろいろな物語で表現されてきたが、使者を「ツナグ」と呼び、十代に設定したことで、今のこの時代の物語として成功を収めている。死者にもう一度会いたいということは、姿かたちではなく、その心を求めているからであり、この小説が心をツナグ物語になっている所以だろう。
新しき日本語ロックの道と光
「そのぬくもりに用がある」で打ち抜かれたタイプですが、ハッキリ言って「買い」です。
邦楽のアルバムなんて10年くらい買ってないのですが、これは正解でした。第一印象は音
の引きずり感がジョン・スペンサー&ザ・ブルース・エクスプロージョンと似ているかな。
で、聞いていくうちにイントロから一気に爆発してラウドに駆け抜けていく感じはMC5
だったり。ボーカルが高音でハスキーというよりもダミってくる辺り、それからアドリブ
で好きに煽る感じはモロにソウル。個人的には少しだけオーティスっぽいものを感じた。
一転してメロウな曲はギターのトーンがブルージーと呼べるほど枯れてはないが、ソウル
が好きなんだなーと直感させてくれるイイ音です。このタイトルはダニー・ハサウェイの
「新しきソウルの光と道(Everything is Everything)」をもじったものだけど、メンバー
にとって、このアルバムが記念すべき道と光なのは間違いないです。今すぐ海外のクラブ・
サーキットに出ても立派に通用するだろうと感じさせてくれる1枚。
さよなら、ビビアン
文章はあっさり型。淡々とストーリーが進みます。
でも、そこから中国人の若者の実像が浮かび上がってきます。
日本から見ると中国って何を考えているのかよく分からない国だけど、
彼らを理解するには、ニュースよりもこういう小説を読む方が100倍いい。
短編集なので、中国文学入門の方にはオススメです。
言葉にならない、笑顔をみせてくれよ(初回限定盤)(DVD付)
まずはアルバムタイトルが凄い。素敵な言葉だし、非常によくアルバムを表現してると思う。
きっと、こういうアルバムが好きではない人も世間には多いとは思う。
歌詞だって、わからない人にはたぶん永遠にわからないでしょう。
民謡調だったり、随所に和風なところも、嫌いな人は嫌いでしょう。
こういうアルバムがいいなって思う人ばかりの世の中になれば、すっごい平和で穏やかな日々がつづくと思うんだけどな(笑)
普通の生活、幸せ、大好きなひとの笑顔、知らない人との適度な距離感、見知らぬ人との温泉での裸の付き合い。
自分のことは自分でやる、適度なほったらかし感がある世の中。
じっくりと音楽を聴く習慣のある人には、とても響くアルバムなんじゃないかと思う。
くるりはいつもだけど、音にも、演奏にも、歌詞にも、聴こえ方にも、全部こだわってる。
10代や20代前半の人には、オシャレっぽくないサウンドだし、受け入れられにくい曲調だってことはわかるんだけど、是非聴いて欲しいなぁ…。
日本って、ふつうの暮らしっていいんだよ、大事なんだよ、って気付いてもらえたらいいなぁ。
誰でもいいから、なんの欺瞞も打算もない「笑顔」をみたいし、そういう笑顔をしたいと思う。
いろいろ聴いてきたお姉さんとしては、こういうのがめっちゃ格好良くて、素敵なんですわ(笑)
さよならBaby (キャラコミックス)
私も同作者の『聞こえない声』がお気に入りだったので、
ここのレビューを参考に購入を決めました。
同居人である年の離れた従兄よしのりの無意識の行動に、ドキドキぐるぐるする中学生のたまきくんとか、
そんなたまきくんのひそかな気持ちに気づいてやきもきする、よしのりの恋人ミツルさんとか、
いろいろと楽しめる要素のある作品でしたが、
肝心のよしのりが鈍感すぎて、たまきくんの持て余す感情も、ミツルさんの抱える切なさも、
ひしひしと伝わってくる割に両方あっさりと受け流されてしまい、読んでるほうまで肩透かしを食うような印象です。
よしのりが気づかなければ、この三人の関係に終わりのくることはなく、
その終わりのなさが、この作品の醸し出すほのぼのとした楽しさであり、個人的に感じるもの足りなさでもあります。
BL作品としては、個人的な「萌え」に一歩足りない感じなのですが、
ひとつのマンガ作品として、じゅうぶんに楽しめる内容でした。
可愛いだけじゃない、大人と子供のはざまにいる少年を描くのが上手な作家さんです。