冬波 〔風烈廻り与力・青柳剣一郎〕 (祥伝社文庫)
いつも考えさせられる題材が織り込まれた時代小説です。
今回は青柳剣一郎の嫡子で見習い与力である剣之助を中心に物語が展開します。
親譲りの非凡な才能を見せる剣之助は、悪徳な金貸しの主を殺し、近隣の一人暮らしの女を人質に立て籠もった、その殺された金貸しの使用人を捕縛する一件に加わります。
事件は、借金の催促と取立が厳しいことで評判の悪い金貸しの主を殺したその使用人が自殺し、人質も無事解放され幕を閉じます。
しかし、剣之助はあっさりと解決した事件に違和感を感じ一人捜査を進めます。
剣之助が先輩与力によって解決済みである事件を掘り返すことで、彼が奉行所内で孤立することを案じた剣一郎は、妻の多恵の意見を聞き入れ文七に探らせます。
剣之助と文七は協力して次第に事件の真相に近づきます。
しかし、事件の真相に近づくことが、逆に、貧しくとも健気に市井に生きる人々から、その幸せを奪うことになるのでは、と想い悩みそして迷います。
美しく成長した娘「るい」の縁談話から目を背けながら、子を想う父として、そしてまた切れ者の先輩与力として、剣一郎が剣之助の苦悩をどう救ってやるのかがポイントです。
佐平次落とし―三人佐平次捕物帳 (時代小説文庫)
小杉氏の作品の中では、本シリーズが最も気楽に読めると感じていた。
主人公の佐吉が甘ったれだとか、ちょっとした出来事で落ち込んだり
良い気になったりという気分の浮き沈みが平気で語られるといった表現方法から、
そう感じていたのだった。
しかし、本書での佐吉は、意外と我慢できる様に成長しつつあると読めた。
「ちょっと大人になったね」と声かけをしたいくらいである。
物足らなかったのは、平吉の活躍が少なかったことか。
最後のどんでん返しの伏線としては、冴えなかった様に感ぜられた。
本書のどんでん返しの内容と描写に苦笑を禁じ得なかったけれども、
ナルシストな男子が一人前の男に成長していく物語として、
読み易く微笑ましいシリーズではないか。
夏炎 〔風烈廻り与力・青柳剣一郎〕 (祥伝社文庫)
将来を誓った好きな女のために、
貧しい中、辛く苦しい日々の生活にも直向に生きる男。
美しいが故に大店の跡取り息子に望まれ男を裏切ってしまう女。
男は自分を裏切った女を殺そうとするが未遂に終わる。
奉行所に捕らえられた男を哀れみ、与力青柳剣一郎は何とか命だけは助けてやろうと動く。
しかし、男は終始一貫して殺人の動機を変えない。
一方、金につられて真実を曲げて証言する女と女の家族、そして近隣の者達。
貧しく悲しい江戸に暮らす庶民を助ける与力や同心の活躍がすばらしい。
秋雷 〔風烈廻り同心・青柳剣一郎〕 (祥伝社文庫)
このシリーズは発売と同時に読みかけの本があっても最優先で購入し読んでおります。
現代社会の世相が実に巧妙に違和感無く時代小説の中に織り込まれており、
作者の時代小説に対する物語の構成技法や江戸時代の地理、風俗、習慣等の描写に敬服します。
江戸の町の地理や市井で暮らす人々の悲哀やささやかな幸せや喜びが見えるような錯覚を覚えます。
「秋雷」は今までのシリーズとはちょっと異なった趣を感じます。
剣の遣い手であり切れ者の敏腕与力である主人公「青柳剣一郎」が、
本編では剣を遣う場面がありません。
一人の不幸な女に惹かれる普通の男であり、良妻賢母である美しい妻を愛する夫であり、
娘の縁談にはらはらどきどきと動揺し、息子夫婦を思い遣る優しい父親である彼の人としての役割が、
全編にわたってそこかしこに描かれてはいますが、本編の事件の展開や過去の事件と巧妙に絡んでおり、
逆に「あー、そんな事件もあったな。」と思い出しながら読むのも楽しいと思いました。
今回の事件の解決は2人の同心が活躍します。
興味がお有りの方は是非1巻目からお読みになることをお奨めします。