バッハ:音楽の捧げもの
バッハのこの曲はもう随分長いこと私のお気に入りです。マリナーのLPから始まって嬉しいにつけ悲しいにつけ聴いています。6声のリチェルカーレが湧き上がるように立ち上がるとき、今生きて此処でこの曲を聴いていられる事は奇跡に近い僥倖なのだ、と何時も思います。このバイヤールのCD の穏やかな演奏を聴いていると波立った心が静まって充足感に満たされます。以前英国で脳の器質障害で行動異常のある患者さん達がバッハの「St Matthew Passion」のテレビ演奏を身じろぎもせずに聴き入っていたのを目撃して、バッハの音楽は西洋人のサイケの深いところで共鳴するのだろうと感銘を受けたことがあります。けれどもこのCDを聴きながら、バッハの音楽性はもっと心の深層に根を張った普遍的なものではないかと思っています。残念なのはコンサートでこの作品を生で聴く機会に未だ恵まれない事です。