Organ Works
ヘルムート・ヴァルヒャによるバッハ・オルガン全集。ステレオによる二度目の録音。
バッハ・オルガン全集の決定盤といわれています。
こちら の輸入盤で、国内盤よりお得です。
国内盤の方に詳しいレビューがあるので、感想はそちらにお譲りします。
12枚組で、コープマンの16枚組、アランの15枚と比べると収録曲は少ないです。
キルンベルガー・コラール、1980年代に発見されたノイマイスター・コラールなど、コラール集としてまとまっていない曲群や、ヴィヴァルディなどの協奏曲のバッハ自身によるオルガン編曲版などは収録していません。
しかし主要な作品は収録しているので、全集と呼んでよいと思います。「フーガの技法」も、未完の最終曲の、ヴァルヒャ自身による編曲を含め収録。
1950-70年代前半までの録音で、特にコラールより自由曲(フーガなど)の方が録音が悪いですが、演奏は素晴らしいです。
歴史的名盤なのにもかかわらず、非常に検索しにくいので、国内盤からリンクを張っておきました。
バッハ:ゴールドベルク変奏曲
このアリアと30のヴァリエーションは多くの演奏家、特にピアニストにとっては万華鏡を覗くような多彩な表現とヴィルトゥオーシティの格好の披露の場となるが、ヴァルヒャは全くそれとはタイプを異にしている。彼の演奏には小器用な歌いまわしも洒落っ気もさっぱり無いから、そうしたものを期待する人には当て外れになるだろう。しかしこの75分に及ぶ全曲を聴き終えた時、初めて気が付いたことがある。それは彼がこの曲を、横に長く連なった曲としてでなく、実は縦に高く構築された音の建造物として意識しているということだ。これは恐らく彼のオルガン奏者としての発想だろう。それ故にそれぞれのヴァリエーションにいたずらに拘泥することを避けながら、基礎から整然と頂点に向かって積み上げられていくエレメントとしての役割を与えている。これが曲全体に隙の無い統一感をもたらして、聴き手に崇高なまでの深い感動を与える理由だろう。
ヴァルヒャがバッハのチェンバロ音楽に使用した楽器は、2回目の『平均律』を除いて総てユルゲン・アンマーのモダン・チェンバロだが、当時の古楽器事情からすれば妥当な選択だったと言える。録音は1961年でCD化されてから3回目のリリースになり、今回は24bitリマスタリングによってチェンバロ特有の澄んだ響きが生かされている。
バッハ:2声のインヴェンションBWV.772~786、3声のシンフォニアBWV.787~801
ヴァルヒャほどバッハの意図する音楽を忠実に再現すべく努力した演奏家は稀だ。その飾り気のないシンプルな解釈で各声部の進行と曲の構造を極めて明瞭に感知させ、それを阻害するような一切の恣意的な要素を避けた掛け値なしの真摯な表現が最大の特徴だろう。
バッハはこの二つの小曲集で初心者が対位法のそれぞれの声部を明確に弾き分ける為の指の独立性の修練と、ひいては作曲の為のヒントとして主題とその展開への模範例を示し、2声と3声の様々な調性で学べるように工夫した。しかしヴァルヒャの演奏は決してそうした教育的な側面を強調したものではなく、ひとつひとつの曲に精彩に富んだ音楽的な生気を吹き込み、控えめではあるがストップを使って気の利いた個性を与えている。それはバッハの考えていた、優れた教材は同時に優れた芸術作品でなければならないという哲学を具現しているからだ。
ヴァルヒャは58年から62年にかけてバッハのチェンバロ・ソロの為に書かれた作品を集中的に録音した。ちなみにこのインヴェンションとシンフォニアは61年、彼が54歳の時のもので、当時使用された楽器は総てユルゲン・アンマー社のモダン・チェンバロだ。古楽研究の黎明期でもあり、古楽器を修復して実際の演奏に使うことがまだ一般的ではなかった時代には、やむを得なかったことが想像されるが、それでも柔らかで潤沢な響きを持ち、表現力に富んだこの楽器を選んだことは彼の秀でた感性を証明している。
尚このCDは新たに24bitリマスターされたものでヴァルヒャのシリーズでは『ゴールトベルク変奏曲』に続く2枚目で、全くノイズのない澄んだ音色が堪能できる。
バッハ:オルガン名曲集
他の方もおっしゃっておられる通り、「パッサカリアとフーガ」が特にいいと感じました。
以前ある作曲家の方が、「同じ音を維持するということには精神的な粘りを必要とする。だから、長い音のフレーズが多く出てくるということは、その点で真面目さが要求される音楽なのだ」というようなことを言われていました。少し違うかも知れませんが、同じ気持ちがこの「パッサカリア…」にも表れていると思います。何度も繰り返される低音の旋律、その上に構築されていく音楽、曲が進むにつれ盛り上がりをみせる中、また低音の主題が揺るぎないテンポで表れる…。フーガも含めるとかなり長い曲ですが、最後まで緊張感が持続された素晴らしい演奏です。
バッハのオルガン名曲集として、曲目も曲順もいいと思います。「パッサカリア…」が終わった後に聴く「小フーガ」の清澄さには自然と引き込まれてしまいます。
16歳で失明したという演奏者のヴァルヒャ。目が不自由な…ということでは、最近は辻井伸行さんが話題ですが、お二人の演奏に相通じるものを感じたのは、私の気のせいでしょうか。