棒がいっぽん (Mag comics) |
未来人のアリバイのため、1968.6.6の昼食内容を思い出してくれという
荒唐無稽の設定。 そこから、人生のありふれた一こまの記憶のかけがえのなさ、 愛おしさを描いてくれます。 「美しきまち」「バスで4時に」こちらもすごい傑作です。 シンプルな描線で、うんうん、あるあると、共感できるエピソードを重ねていくことで、僕と主人公の距離が、ページをめくるごとに、すこしずつ縮まっていく。 ちょうどいい頃合いのところで、スパーンとドラマチックに見開きページ。 その瞬間、僕は、主人公の中に完全に入り込んで、主人公の目でその光景を見ているかのような感覚におそわれる。そして、そのときの主人公の感情やら、予感やらも大量に流れ込んできて、シンクロしてしまう。短編マンガの、洗練された完成型がここにあります。 |
絶対安全剃刀―高野文子作品集 |
1980年前後に発表された短編17編からなる、世評の高い作品集である。絵は多彩かつ芸術的、またその前衛的な内容は、現代でも(一部を除き)古びていない。しかし、読み手を選ぶ作品ばかりであり、万人に勧めることはできない。私には、青春の不安定な心を主題にした作品(表題作含)は合わなかった。一方で、「玄関」のようなリリックな作品は好きである。また、恐るべき感性の賜物「田辺のつる」には、芸術としてのまんがの凄みを見た。
次のうちあてはまる項目が多い人ほど、この作品集に手放しの賛辞を送るのではなかろうか。 1)知的なモノに憧れる人 2)見栄っ張り 3)評論家 4)夢想家 5)革命家 6)すれっからしのまんが読み |
黄色い本―ジャック・チボーという名の友人 (アフタヌーンKCデラックス (1488)) |
表題作の「黄色い本」では、物語に夢中になった時のなんともいえない感覚、
それが見事に表現されていてぐっときてしまいます。 主人公、実地子にとってのジャック・チボーのような存在が 十代のとき誰にでもあるものではないかと思う。 それが人によっては小説であったり、音楽であったり… この作品は、自分がそうして夢中になっていた時間を思い出させてくれます。 そしてそういうおそらく誰にでも経験のある、ごく個人的な感動が 漫画という手法で新たな物語として表現されていることに驚きました。 小説の物語と現実の世界とが交錯する表現は、 漫画だからこそ出来たのではと思うような独創的なもの。 一緒に収録されている短編も、微妙な人間関係のワンシーンを見事に切り取っていて じわじわとした面白さがこみあげてきます。 繰り返し読んでいると、小さな1コマが実は凝っていることに気づいたり。 読み応えのある一冊で、同時にとても愛着のわく一冊。 |