「悲しみの氷漬け(宇野功芳氏)」‥目には一杯の涙を溜めながら顔は微笑んでいるモツ。苦悩する天才の翳りの深さを感じさせます。溢れ出る旋律を楽譜に書き留めることが困難だったと言われるモーツアルト。
カザルスのオーケストラ演奏はバッハには強すぎるし、ベトには少し弱い、モツが丁度いい具合だと評されることがあるが−−。
私は特にこの後期シンフォについてはべトの重厚さに匹敵する彫りの深さと緊迫感をとても感じる。従いカザルスの演奏はその本質を上手く引き出した優れたものと思います。矢張り、あのバッハの無伴奏をどうしても傍らに感じ乍らその共通点を肌で探っている自分があります。ワルターやベームも良いだろうが、私は深さと翳りの点で人間カザルスの圧倒的名演と言いたい。
ソニーレコード1959年〜1968年の収録、3枚組み。ディスク1−51分09秒。ディスク2−56分18秒。ディスク3−53分53秒。リンツのみプエルト・リコ、他はマールボロ管。
米国の名門女子大の学生たちが、プエルトリコへ
調査旅行へ行くという内容のこの小説は、作者の1959年〜60年のアメリカ留学体験が元になっているらしい。
(多分)WASPのジュリア、日本人留学生の会田崎子、プエルトリコ独立を熱望している現地人のホセ・アレグリアの三人が主人公といってよく、ジュリアと崎子の日記という形式で小説が構成されている。
一番目立つというか、作中一番戯画的に扱われてるのはアメリカ人であるジュリア。共産主義、有色人種への偏見(本人は偏見だと自覚してない)や、
調査する対象であるプエルトリコを理解する姿勢もない。ましてや
スペイン語が出来ないどころか覚える気もない。時代的には、アイゼンハワーからケネディの頃なわけだが、ジュリアをはじめとするアメリカ白人達は、ハルバースタムの『
ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (朝日文庫)』で描かれたエリート達にその姿がダブってしまう。
ただし作者の乾いた笑いはジュリアだけを対象としているのではない。ホセ・アレグリアやその家族が持つ黄色人種への偏見や名族意識もそうだし、出来事を批判的に見ている会田自身も実は(暗黙のうちにだが)その笑いの対象となっている。
理解できない三者によるディスコミュニケーションの話、現実の世界の縮図をカリカチュアライズした小説とも言える。
CBS
SONYから発売されているカザルスが指揮した演奏の数々は、強い精神力と意志を感じさせ、好きな演奏が多いです。今回グランドスラムが発掘したのはカザルスが指揮するブラームスの1番とのことで、想像しただけで聴くのが楽しみで、よろこんで購入しました。
さっそく交響曲から聴きましたが、個人所蔵の2トラック・オープンリールテープのコピーからの復刻で、収録は1963年ですが、モノラル録音でした。残念ながら、かなりテープヒスが目立ち、弱音部では演奏よりもヒスノイズのほうが大きいほどです。演奏は、第1楽章の主部や第4楽章など速いテンポで一気に進めていくところや、弦楽器の熱っぽい歌い込み、第3楽章の中間部から主部が再現される過程の意志的なピチカートなど、随所にカザルスらしさを感じましたが、臨時編成のオーケストラで編成が小さいためか、低音の量感に乏しく、スケール感を感じさせる演奏ではありませんでした。もちろん悪い演奏ではないと思いますが、数多くのブラームスの1番の音盤の中では突出して素晴らしい盤とも思えず、テープヒスも盛大に入っていることから、やはりマニア向けの音源かと思います。第4楽章コーダの直前で大きくテンポを落とすところなど個性的ですが、指揮技術の限界からこのテンポで妥協したようにも感じられ、ブラインド・テストで聴かされたら、カザルス指揮と言い当てる自信は全くありません。第1楽章提示部の反復は省略されています。なお各々の楽章が終わるとノイズが急速にフェードアウトして無音状態となり、数秒後に次の楽章が始まるのですが、わたしはこのような編集は好みません。最後に聴衆の拍手が入るライブ録音なので、楽章間のノイズもそのまま残しておいて欲しいと思います。
なお余白に「ハイドンの主題による変奏曲」が併録されていますが、こちらは1927年のSP録音からの復刻であるにもかかわらず、聴きやすい音質なのに驚きました。ダイナミックレンジは狭く、回転ムラや盛大な針音ノイズも入っていますが、高音から低音のバランスも良好で、演奏としてはハイドン変奏曲のほうが楽しめました。演奏団体が常設の
ロンドン交響楽団というのが大きいのでしょうか。