ヨーロッパ系の名前だが、’70年生まれのアメリカ人であるオレン・スタインハウワーは、『嘆きの橋』(’03年、CWAやMWAなど5つのミステリー新人賞候補となる、訳出は’05年)でデビュー。続く『極限捜査』(’04年、訳出された’08年、「このミステリーがすごい!」海外編で第14位にランクイン)を含む、いずれも架空の東欧の小国を舞台に民警捜査官たちの活動を描いた≪ヤルタ・ブールヴァード≫5部作を完結させ、’09年、“21世紀型のスパイ小説”と評価される本書を発表した。’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で第17位にランクイン。また、
ジョニー・デップ、
アンジェリーナ・ジョリー主演で映画化もされた。
<ツーリスト>とは、CIAが世界各国に放った非合法諜報工作員。冒頭、2001年、自殺まで思いつめた苦悩の<ツーリスト>、ミロ・ウィーヴァーが組織の工作資金を持ち逃げした仲間の上司を追ってのヴェネチアの行動と無残な結果で幕を開ける。そして物語は一気に2007年7月に。一線を退いたミロに上司から機密漏洩が疑われる旧知の同僚の
調査を命じられ、最前線に復帰、
パリへ赴く。
そこからは一気呵成である。殺人の容疑をかけられたミロが逃亡しながら真相を探るという暗闘が続くのだが、展開は二転三転四転、工業化が進む中国、そこに石油を輸出するアフリカ、
ロシアの実業家、自殺を遂げた暗殺者、ミロを追う国土安全保障省のスペシャル・エージェントたちが入り乱れ、読者は何を、誰を、上司すらも信じられない事態に追い込まれるミロの姿を見る。やがてミロ自身の出自の謎までも・・・。
本書は、9・11以後混迷を深める世界情勢を、ミロという、ハードな活動をしながらも休暇に家族と遊び、常に家族を大切に思う、ひとりの<ツーリスト>をフィーチャーして、従来のマッチョなヒーロー・スパイ小説とは一線を画し、シニカルに切り取ったエンターテインメントではないだろうか。
最後に、現在では馴染みのない難解な言葉や言い回しを多用した年配者による訳出が、本書の魅力を損ねてしまっていることは残念に思った。
貴重な公道走行を考慮し開発されたトライアル車用
タイヤです。
公道走ってトレッキングするならバランスの良いこれ一択だとおもいます。
本書を読むに当たっては基本的な歴史的背景もさることながら、スパイ小説というジャンルの背景を理解しなければ評価を誤ると感じます。私自身、正直スパイ小説は門外漢で、スパイといえば007くらいしか知りません。つまりスパイ小説の黄金時代をまったく知らない人間なのです。
スタインハウアーはスパイ小説の新しい物語を始めるにあたり、古典といわれるようなスパイ小説の様式美、醍醐味、嗜み方を読者に知ってもらいたかったのでしょう。それが上巻での読みにくさ、時間軸と人物関係の分かりにくさに繋がっているのだと思います。その分かりにくさも下巻に入ると一気に解消されストーリーが動き出します。思うに私たちは前半でスパイ小説の文法と特徴的な構造を学習させられ、その上でトータルでのスパイ小説を提示されたような気がします。つまり本書は過去からの繋がりのあるひとつのジャンルの転換点にある作品であるがゆえに、こうも前半読み辛いのだと思います。しかしその読み難さは本書の本質を損なうべき要素ではありません。
ひとつの文法や文章構造になれていない読み手が苦痛なく作品を楽しむためには、ある意味反則ではありますが巻末の解説を一読していただき物語構造を少し理解した後に読み始めることをお勧めします。解説を始めに読んだとしてもネタバレはありませんし、前半のイラツキを経験しないだけでもずいぶん印象が変わると思います。
しかるべき準備をした上で本書に触れ、スパイ小説の新世界の冒険をはじめようではありませんか!
アクリルで円筒型の安いものもあったが、薄い方がバッグに入れるのに便利だと思いこちらを購入。
実際、薄いのでバッグの中に
コンパクトに収まる。