「これからは温泉の時代です」と編集者に乗せられて、連載された温泉紀行で、全国の名湯・迷湯・奇湯20地域が紹介されています。しかし、そこは名エッセイストにて画伯・食通でもある著者のこと、普通の温泉紀行にはなっていません。著者独特のユーモア溢れるものの見方、そして大食漢の編集者スバル君や温泉狂のドスト氏といったユニークな同行者、旅先で出あった忘れがたい人々らが交じり合って、非常に面白いエッセイになっています。また、著者自身による多数の挿絵(内、半数はカラー)が添えられているのも嬉しい限りです。そして、各地域ごとに「手帳の余白にちょっと」というコーナーがあり、そばや喫茶の名店が紹介されているのも、旅行時に役立ちそうです。要は、温泉ガイド、エッセイ、画集、名店ガイド等々、一粒で何度も美味しい著者ならではのぜいたくなエッセイ集です。
「温泉へ行こう」は今まで5までシリーズで作られていますが、その中でも1は最高です。とくに主人公で大女将の娘の椎名薫が支配人の武藤健司とイガミ合いながらも次第に惹かれあうようになるシーンは必見です。
1985年に出た単行本の文庫化。
日本全国20ヶ所の温泉に入りまくる本。単なる温泉ガイドではなく、きちんとした紀行文になっているので面白い。特に、東京を出発して目的地に着くまでが詳細に語られているところが良い。集合時間よりずっと早く東京駅に着いてしまうこと、夜行
列車で眠れないこと、同行する編集者について。旅は、目的地に着くまでが面白いのだということが良く伝わってくる。
宿屋や湯の評価、食事について、わりと忌憚なく語られている点にも好感を覚える。
山口瞳に独特の、辛口なような嘆き節のような文章に酔うことの出来る一冊。