警察学校を退学扱いになり身分を隠して
香港マフィアに潜入した警官ヤン(トニー・レオン)と警察に潜入したマフィアのラウ(
アンディ・ラウ)の駆け引きと潜入という地獄の業に苦しむ様をスリリングに描いた快作。正体がばれると殺されるという恐怖が絶えることなく永遠に襲いかかるというまさに「無間地獄」が特にヤンの方から痛々しいほど伝わってくる(ヤンは精神的にも崩壊寸前でケリー・チャン演じる精神科医に看てもらっている)。一方、ラウの方はマフィアのボスに一生使われる苦痛から逃れる方法を考える余裕があり、どちらかというと上手く世を渡っている感が強く、どうしてもヤンの方に感情移入してしまう。
この2人の駆け引きは前半の麻薬取引での情報のやり取りで緊張感とスピード感いっぱいで描かれているし、無間地獄から脱しようとする策をめぐらせる展開はテンポも良く素晴らしい。そして、ヤンが精神的にダメージを受けながらも警官としての誇りを全うしようとする点を丁寧に描いているところなど単なるサスペンス・アクションレベルではない。
ハリウッドが見逃すはずがなくマーティン・スコセッシ監督が「ディパーテッド」としてリメイクしたほどの傑作だが、仏教の「無間地獄」をテーマとしたこの重厚な作品の真の意味は
ハリウッドでは描けないだろう(「ディパーテッド」とは「死に値する者」の意味)。
私の好きな宍戸錠に似ているアンソニー・ウォンがヤンの上司として登場し作品の渋味をアップさせているし、エリック・ツァンがマフィアのボスを十分な迫力で好演しているところも作品の質を上げている。2作目以降に潜入した2人の因果が描かれる等シリーズとしても冴える傑作だ。