05年07月の単行本,
07年12月のノベルスを経て文庫化.全7編の連作短編ミステリです.
『腕貫』とは,テレビなどでよく見る事務員さんらの袖を覆う汚れ防止のためのカバー.
本作は,その腕貫の似合う市役所職員(らしい?)が
探偵役を務める内容となっています.
さてこちら,区切るならば現場を見ずに推理をする『安楽椅子
探偵』が近そうですが,
よくあるそれらとは少し異なり,
探偵はほとんど顔を出さず,積極的にも関わりません.
各編とも大学生やサラリーマンなど,それぞれの物語とトラブルや疑問を抱える人が居て,
そんな彼らの近くにいつの間にか現れ,その隙間を埋めるためのヒントをチラリと出すだけ.
そして問題は一応の解決を見せるのですが,具体的にその後までが描かれることはありません.
また正直なところ,作中の情報だけで
探偵が語る『真相』に辿り着くのは難しいのですが,
理詰めで語られる終盤は,「確かにそうだった」と納得させられる気持ちのよさがあります.
扱われる事件も大掛かりなものから日常の謎,そしてゾッとしそうなものとバラエティに富み,
他にも話運びの巧さや,編を跨いで場所や人が繋がる仕掛けなどは些細ながらも楽しくなります.
本作は「腕貫
探偵シリーズ」の第2弾であり、第1弾として
「腕貫
探偵」があることを読了後に気が付きました。つまり、
前作を知らずに読みましたが、6つの短編を楽しめました。
櫃洗市の市民サーヴィス課に勤める、腕貫を嵌めた如何にも
お役所勤務の男が、不思議な事件なり事象に悩んでいる人達の
話を聞くだけで解答を出してしまう、安楽椅子
探偵ものです。
西澤さんの作品は初めて読みましたが、6作ともに毒というか
ピリッとするスパイスがあり、短い中に人間の表面と裏面が
見え隠れするストーリー展開で、一気に読んでしまいました。
上述のようにスパイスはありますが、複数の作品に登場する
女子大生・ユリエが、ストーリー中に漂う暗い雰囲気を
打破しており、ウツ展開にはならないのでご安心を。
順番は逆になりましたが、早速「腕貫
探偵」も読んでみます。
まさか腕貫
探偵の新作が書き下ろしで読めるとは!!
たまたま、発売日当日に仕事中にAmazonを検索していたら(こらこら)、発見。
もうその場ですぐに本屋に駆け込みたくなるのをひたすらこらえていました。
一気に読了。シリーズ初の長編でしたが、あっとう間に読んでしまいました。
腕貫
探偵と、作者の別作品『必然という名の偶然』で登場した女大富豪
探偵ヒロッチこと、
月夜見ひろゑのまさかの競演です!!
と言っても、今作では二人は邂逅していませんが。
いずれそんなシーンも読めるのかなあと。
西澤保彦ファンなら、『腕貫
探偵』シリーズと『必然という名の偶然』が、
同じ櫃洗市<人殺シティ>という架空の都市が舞台と言うことは知っていると思います。
今作には
氷見&水谷川の刑事コンビ
<シンヒツ・ロット>
<カットレット・ハウス>
局アナ 榎本裕子
などお馴染みの名前も登場します。
そして、
タイトルの「モラトリアム・シアター produced by 腕貫
探偵」の意味も、
最後の最後にわかります。ニヤリとしました。
最後に誤字。
P273 左から3行目
誤→智慧クロォフード
正→智慧クロフォード
※ 誤字は初版第一刷のみ。第二刷からは修正されています。