普通に四半世紀、マンガを読んできている人なら知らぬ人はいない作家。
やまだ紫は間違いなく「女性漫画家」の始祖の一人だ。
70年代に「COM」でデビューし「ガロ」に移り「ビッグコミック賞」佳作も取った。しかしすぐに結婚と出産育児で休筆。「性悪
猫」で復活しその後火山の噴火のごとく名作を立て続けに発表する。「しんきらり」は団地に住む子ども二人と平凡な夫を持つ主婦の物語で、不倫や子どものエキセントリックな不幸やドラマも何も起きない。平々凡々とした日々が描かれていく。
しかし世の中、この平凡な日常こそがドラマであるということに気付かせてくれたのが、やまだ紫である。
昨今絵柄が古いとか、ディテールに時代を感じるとか、そういうことで表層的にしか作品を読めない人もいるものだが、余計な上っ面の部分を取り除いて核となる作品そのものを見るとき、やまだ紫の作品はどれもきらめく宝石のような輝きを失わない。
これから母になる少女たち、いま母であり妻である女たち、そして何より世のオトコどもに読ませたい。読むべき作品だ。
「ガロ」に連載され、青林堂からハードカバー版が出て30年。
ちくま文庫化され20年。いいものは残り、後世に伝えられる。
青林堂版「性悪
猫」から、ちくま文庫「新編 性悪
猫」再編にあたり新たに「長くつ はかない ねこ」「時間の兵隊」が加えられた。
さらに筑摩書房「やまだ紫作品集5 性悪
猫/鈍たちとやま
猫」で「出口」一篇が追加された。
この度の復刊・小学館版『性悪
猫』は青林堂版のカラー口絵が復刻され、作品集5で時系列がおかしかった作品の並びが修正された。
さらにカラー・モノクロの「
猫ギャラリー」が加わり、解説の中野晴行氏の文中には幻の同人誌「あっぷるこあ」(「COM」の編集者が主宰)に発表された、「性悪
猫」の事実上の第一作「ときどき日溜まりで」の貴重な原型が見られる。
中野氏はじめこの作品と出逢ったたくさんの人たちが口を揃える。
出逢った時にはその時の、十年経てばまた別の、二十年、三十年経ってもまた新たな感動がある。
つまり「一生もの」の宝物のような本だ。
読者や時代に媚びることのない、やまだ紫という作家の原点とも言うべき真の名作。
「本」という形で手元に置き、人生の節目節目に開きたい。そして次代へ伝えたい。