漫画のなかで描かれる青春はどうして野球やサッカーで全国大会に出るようなやつらばかりが主人公なのか。女子マネと恋愛して幼なじみと三角関係にならねば青春ではないのか。Fuck off! ああいう漫画があるから僕らはなお劣等感に苦しまねばならないのだ。
山田花子の漫画の主人公たちはそんなスターダムにのし上がる人間とは程遠い。人間関係をうまく作れず、気が弱いくせに人に愛されたいと願い、だけど気がつけばいつも爪弾きにされて孤独に追いやられる、愛すべき、だけど生理的に愛せない登場人物たち。物陰を這うダンゴムシのようなこの世の負け
犬、だけどかれらにだって五分の魂があるのだ、全国大会で優勝を争うことに命がけになる人間がいる一方、狭い人間関係を必死に保とうと懸命になっている人間がいるのだ。
画はすこぶる汚いし、ストーリー性などかけらもないが、作者の鋭い観察眼には舌を巻くし、全編とおして並々ならぬ緊張感がみなぎっている。有無を言わせぬ凄味がある。
題材は人間関係、テーマは人間の宿命だ。狭いクラスという小さな社会の日常の些事のなかに人間の宿命と言う重いテーマを叩きこむ、その暴挙ともいえる試み。困難を努力と根性で乗り越えてゆく体育会系漫画とは真逆のベクトル、なにをどうやっても変えられない地点でもがき苦しむ弱者たちの姿を描いた、一大青春狂奏曲。
その鋭い筆致は深層心理にしまいこんで二度と見るまいと心に決めていたトラウマをつつき、えぐり、引きずり出し、眼の前に押し付けてくる。食欲が失せることはまず必至、これを読んで死にたくなっても責任はいっさい持てないが、それでも構うことなく無責任にお薦めしたい。
ちなみに作者の山田花子は24歳の若さで自殺した。精神分裂病だったらしいが、病気はあんまり関係ないだろう。きっとそれが、彼女の宿命だったのだ。