原子力発電の運用側の観点からの多重防護というのは、
単に安全対策を複数用意することで
事故に至る確率をを低下させるというだけでなく、
同時に破られることの無い安全策を用意しておくことで、
ある不具合(事象)が発生した場合に、
運用の停止や周辺環境への悪影響を引き起こすことなく改善作業に入ることが出来る
という長所があるということです。
多重防護は広く一般的にフェイルセーフとか深層防護といわれるものの中の一つの方法です。
深層防護の一つとしてインターロックが例に挙げられていますが、
この本を読む限り原子力発電での安全策とは、出力の増大と核分裂に自己制御性が
あるという点を除けば、多重化が中心になっているようです。
MITのラムッセン教授のリスク評価の研究が紹介されています。
個人の死亡者数という観点からのリスク評価ですが、これをみるかぎり、
石油を使った火力発電がもっとも危険で、環境負荷の面からも負担が大きい
ことがわかります。
ただ、これは例えば原子力発電の事故発生確率に限ってみても、
どうやって計算しているのかとても不思議に感じますが、
それはここでは詳細にはわかりません。単に過去の事故発生数を
考慮しただけなのかもしれません。
他のところで書かれているとおり
フランスの原子炉は格納容器を
持たないそうですが、
フランスで今回の日本の福島原発のようなことが
起きた場合、放射能漏れを防ぐことは随分と大変な作業になるでしょう。
そうした事態になる確率というのは、多分過去の事故確率から単純に
想像出来るということではなく、事故が起きてしまえば設計の限界を超えた
状況に必ず陥るという気がします。
日本の原発でも同様で、
耐震基準がマグニチュード6.5であれば、
それを超えたときには事故が発生するのではないでしょうか。
その場合過去の事故の確率が意味があるのかどうか。
耐震基準について言えば、新潟の中越沖地震についての章でも
書かれています。ここで地震動の設計時の予想値と観測値の表が出ていて、
4倍程度になっています。著者はこの表を、設計基準を超えたにも関わらず、
地震に堪えたという意味で多重防護の例として言及しています。
しかしこれは議論としては誤りで、ある確率で生じる事象が
必ず別の安全策で守られているのが多重防護であって、
その場合の事象は多重防護が働いたとしても
設計の範囲内でなければならないでしょう。
原子力発電の経済性の章では、コストについて比較しています。
石油が特に発電単価が高く、
石炭とLNGと原子力はほぼ同様の発電単価になっています。
興味深いのはコストをリスクの観点と組み合わせて議論している点で、
非常に勉強になります。
例えば石油は発電単価に閉める燃料費の割合が高く、
逆に原子力は燃料費の占める割合が低いので、
ウラン燃料の価格が5倍程度になっても発電単価への影響は1割程度になるということ。
逆に言えば建設費の増大は大きく影響します。
あまり詳しくは議論されていませんが著者はウラン燃料も将来は逼迫すると
考えていて、日本の原子力発電が成り立つためには高速増殖炉が
経済的に成り立つ建設費で運営出来ることが必要ということのようです。