少しばかりシワが目につき始めた夜の女
アリス(S・ストーン)は、
異父姉弟を抱えるシングルマザー。
たちの悪い金貸しから最後通告を突きつけられた彼女が
思いがけず運命を共にすることになった相手は、
見ようによってはセクシーといえなくもないが、
好みのタイプではない野暮な40絡みのお人よし。
一見どこにでもいるこの中年男こそ、
どこまでも正直で誠実な美しい心の持ち主、
ビューティフル・ジョーだった。
戸惑い、苛立ちながらも彼を信じ受け入れることで、
どん底から少しずつ幸せになっていく
アリス。
だがその未来には、
ジョーに下された二つの最後通告が影を落としていた・・・。
ともすれば重苦しく説教臭くなりがちなテーマだが、
登場人物の無邪気さがユーモア溢れる視点から描かれており、
最後までもたれることなく見続けることができた。
不幸ゆえにひねくれた人間の意固地さ、怯え、見苦しいほどの強かさを
演じてみせたS・ストーン、体安売りはしてません。
ときおり覗かせる健気さが、大層素敵です。
それ以外の登場人物も囚人からDV夫、殺し屋にいたるまでさまざま。
ステレオタイプを押さえつつも、損得勘定が苦手な愛すべき愚かな人間として
ほのぼの描かれている。
特にジョーをつけねらいながらもジョーのペースに乗せられてしまう
マフィアのボス格の老紳士は、所謂サイコキラーとの誤差が微妙で唸らされた。
ちょっと面白かった。
人間は暴力を振るう前に、何かしら理由をつけて戸惑うことができる。
これは人間に与えられた理性の偉大な働きの一つではないでしょーか。
みんなに聞こえるようにではなく、こっそりとありがとうと言いたくなった。
設定はコッテコテだが演出は地味め。
その分作りが丁寧で、心温まる仕上がりになってます。良品です。
※心温まるとはいえ、ボロボロ泣ける作品ではないと思います。念のため。
シャロン・ストーン、昔のイメージまるで無し。
あれだけ、ボケ役に徹するのは、見事。
ビリー・コノリー 、淡々とした演技が渋い。
子役たち、健気で、可愛く、芸達者。
ラストの息子のシーンは、神の声か。
スティーヴン・メトカーフの演出、脚本は、見事。
計算し尽くした繊細さは、素晴しい。
最後のどんでん返しの意外さと、盛り上がりは、見事、最高。
ジョン・アルトマンの音楽は、作品を貫く精神を良く表現してる。
真面目に、一生懸命、正々堂々と活きる人生は、素晴しい。
鑑賞後の
清涼感に、星5つ。
日本ではあまり馴染みのないホーム・インベーション・ホラー(家宅侵入ホラー)というジャンルに分類される「サプライズ」なる怪作を手掛けたアダム・ウィンガード監督による長編デビュー作なんですが、去年末に静かに公開され、静かに消えて行ったスリラー映画です。
過去と現在の時系列を組み換えてストーリーを展開させる等、明らかに長編初作と分かる実験的要素に満ち溢れた代物なんですが、素人臭い撮影をしたカメラマンがかなり足を引っ張ってしまった映画でして、米国のみならず、日本でも酷評されてしまった作品でもあります。
確かに、撮影された映像は、矢鱈とアップが多い上、画面をいちいち揺らす為、観ていて非常に疲れる箇所が多く存在します。
こうした点は、非難されても仕方ない感じを受けました。
そもそも、何故、こんな映像を撮る為にカメラマンを2人も起てたのか…(泣)
甚だ疑問にも感じたりもしましたが、人と人の純然たる愛情を根底に敷き詰めた物語は非常に好感が持てました。
特にラストの展開は好感触です。
後々、「ABC・オブ・デス」や「V/H/S」といった短編の仕事が舞い込んで来たのも頷けるラストの締め括り方でした。
因みに、監督は、時系列だけでなく、男女の視点を行き来する様に物語を紡ぐ事で、人間関係における信頼と裏切りを浮き彫りにしようと試みたそうです。
成功しているかは別として、観客に考える幅を残した作風が非常に良く、こうした幅の在り方を作り上げる編集の手腕は中々のものでした。
やはり、編集は監督が手掛けるのが一番ですね。
好みの割れる作品ではありますが、後々発売されるであろう同監督の「サプライズ」が好きな方は、自宅のコレクションに加えても良いのではないでしょうか。