やれ詩人だ,哲学者だ,などともてはやされてはいるが,コーエンを一言で語るならば「すけべじじい」だ。ライブの映像で,Web Sisters やS.Robinsonに寄り添うときの御大のうれしそうなことといったらない。でも,御年77歳を過ぎても,自身の辿るべき道が見つからずにもがいている。そんな悲痛な声が,女性コーラス陣とともに昇華されていく様が,まさにこのアルバムに込められている。このアルバムの発売を機にワールドツアー(おもに
カナダからヨーロッパ各国)に出かけているようだが,なぜ日本に来てくれないのか?だれか,生きているうちにコーエンを日本に呼んでくれ!!!
レナード・コーエンの「スザンヌ」を初めて聞いたとき、彼の声、抑制された美しい旋律、そして詩的で深い歌詞に魅了された。彼が描き出したその歌の中の女性は、男性の無意識の中に存在する理想の女性像であるように思えた。その後、多作とはいえない彼の作品を、40年にわたって聞いてきた。すべての歌に感銘を受けたわけではないし、暗い歌が多く、万人向きではないとも感じてきた。
しかし、『ライヴ・イン・
ロンドン』を聞いたとき、その印象は一変した。彼自身MCで、長い間苦しんだうつ病がよくなり「愉快な気持ちが抑えても抑えても出てきた」と語っているが、最後の曲「ウイザー・ザウ・ゴウスト」が静かに終わり、長く続く拍手喝采が鳴り止んだとき、その気持ちがぼくにまで伝染していることに気づいた。更にその後DVDで、彼の表情、仕草、ミュージシャンたちに対する接し方を見て、彼の抑えがたい愉快な気持ちが本物であることを確信した。
その「愉快な気持ち」を検証するには、『アイム・ユア・マン』(1988年)と比較してみるといい。このアルバムから「テイク・ディス・ワルツ」「タワー・オブ・ソング」など6曲が『ライヴ・イン・
ロンドン』に収められている。アレンジもほぼ同じ。両者を聞き比べてみれば、すぐに彼の声が大きく変化していることがわかる。より深く、優しく、穏やかになっている。そこにハビエル・マス、ディノ・ソルドー等の卓越したミュージシャンの演奏と、シャロン・ロビンソンとウエブ・シスターズの「崇高なる」歌声が加わり、彼の「暗い」歌は、新たな生命が与えられ、以前よりも説得力を増している。
『ライヴ・イン・
ロンドン』は、コーエンの語りや無垢な微笑み、丁寧な一人ひとりのミュージシャンの紹介、ミュージシャンたちのコーエンに寄せる畏敬の念、聴衆の拍手喝采、そのすべてが不可欠なコンセプト・アルバムであり、比類なき音楽体験である。DVDを見終わったあと、これほどに感動し、豊かな気持ちになったことは今まで一度もない。レナード・コーエンの『ライヴ・イン・
ロンドン』体験は、すぐれた音楽セラピーであると言えるかもしれない。
レナード・コーエン ------ 世界的な名声は高くとも、日本では一部でしか評価されない
カナダ出身のシンガー・ソングライターであり詩人である。どうせ購入するのは私のようなレナード・コーエンのヘビー・リスナーだけですから。彼は本質的に詩人ですから、彼の詩の世界をより深く知るにはこのような本の翻訳はとてもありがたいことです。
この本はレナード・コーエンのリスナー以外にはやや冗長に感じられるかもしれません。でもファンにとっては必読書です。今後このような本は二度と出版されないでしょう。