東洋医学とか、日本鍼灸とか、そういう言葉があるが、 実際日本ではどうだったかという、 日本の医学の内情は意外と知られていないし、 その文献を掘り起こしている著述は少ない。 かの有名な貝原益軒の『養生訓』は多数取り扱われているが、 その他は少ないような気がする。 本書は、曲直瀬道三の思想を垣間見ることが出来る、 貴重な資料ではないかと思う。 戦国武将の治療に携わった医師の話は、 読み物としても趣きがあって楽しめる。
戦国時代を代表する名医「曲直瀬道三」が残した二冊の書物について意訳・解説した全3章からなる一冊。 第1章は曲直瀬道三の生い立ちから最期に至るまでを紹介している。曲直瀬道三がいかにして「日本医学中興の祖」と呼ばれる程の名医になったか、そして多くの名将・大名に愛される人間的魅力はどこにあったのか。 医術とは、単なる技術ではなく人格的な魅力・円熟を要する「仁術」である事が痛感させられる一章。 第2章は毛利輝元に贈呈された「養生誹諧」全120首の原文と解説。陰陽道に端を発する漢方医学の観点から、衣食住その他の観点から「養生」への心がけを和歌仕立てで説いている。 家庭医学の観点から見て現代でも通用する内容もさることながら、掛詞や連動詩を多用した、文学的にも優れた内容の120首は日めくりカレンダーにでもしたいぐらいの秀逸な作。 第3章は松永久秀に贈呈された「黄素妙論」全文の原文と解説。幻の房中書(平たくいうとSEXのハウツー本)と言われた黄素妙論を解説するこの章は本書最大の見所。 セックスを単なる快楽または繁殖と捉えず、健康を維持するための「養生」と捉え、また男性優位だった当時(戦国時代)の書物にもかかわらず、セックスは女性も等しく快感を共有できてはじめて「養生」として機能すると説いている。 健康とは日々の生活での「養生」心がけることから生まれる。当たり前といえば当たり前のことだが、とかく医者とクスリに頼りがちな現代人には必見の書。特に歴史に興味が無い人でも、「古典・家庭の医学」として読んで欲しい。
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