高峰対決ともいう興味を持った本作であるが、私は高峰秀子の奥行きに軍配を上げる。 もっとも対決という考えを持つ方が馬鹿で、この高峰秀子という女優は配された役柄の霊魂までをも作り出すことが出来る、他に並ぶ者のないただ一人の天才であったと思う。同年1位の24の瞳はまさに高峰秀子の代表作の一つである。
戦後約10年を経て、ようやく戦前の封建的社会からの脱却と女性の自立に目覚め始めた時代を、女子大の学園紛争に なぞらえて描いた渾身の力作。
学校や寮の規則に縛られて恋も勉強もままならない学生たちは、ついに決起して学校側に改善要求を突きつけるが、その 影で板ばさみになって苦しんでいた一人の女子学生が自殺してしまう。監督は後の学園闘争を予言するかの様に戦後の 意識の近代化の歪みとその悲劇を、個人のイデオロギーの対立を通して描いている。
主演は高峰秀子の筈なのに久我美子と高峰三枝子が予想外の迫力で主役を奪い合う勢いである。特に久我のしたたかさは 出色。もちろん秀子の方もその隙間を埋める柔の演技でストーリーの充実に貢献しているが、これ位の事で自殺までするか という疑問は残る。しかしこれだけ錯綜した内容を込み入った印象を残さず映像化できるのは木下監督ならでは。
これ等のものに満足しています。 今後ともAmazonを利用したいと思います。
私が中学生のころ、父親のガラス張りの書棚に、箱入りのこの本が入っていたのが記憶にある。普段、小説などを読まない理科系の父が大事に読みしまっておいた数少ない本。還暦も過ぎたいま、急にどんな筋なのか、どんな文体なのかを知りたくなり、父の嗜好を探りたくなった。 なるほどなぁ。筆者と父親には、昭和初期の時代に青春時代を送ったこと、それと東京・小石川に住んでいたこと。この2つの共通点があったのだ。 下宿先の主人の品格に欠ける風貌と傲慢な振る舞い。教会に通い続ける色白の夫人がじっと堪えるさま。この寒々とした夫婦と主人公の3人の関係が「冬の宿」でどんな展開を見せるのか。息詰まる思いで読み進むうち、前方にかすかな光明が見えてくる。 格調が高い作品とはこういうものを指すのではあるまいか。
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