いちご同盟 (集英社文庫) |
甘い題名とはややずれた、 悲劇を内包した青春小説である。 ありがちなストーリーではあるが、 悲劇部分だけに耽溺することなく 日々の生活と青春の様々な悩みが、 その悲劇と等価に置かれている点において 自己陶酔を免れている傑作である。 愛情と友情、生と死、病と将来、 主人公たちは抗うことの出来ない 運命にひたすら翻弄される。 未来に向いて打ち震える15歳の心が 野球のピッチング、そしてピアノで リリカルに昇華される場面場面は 儚く、そして美しい。 |
マルクスの逆襲 (集英社新書 494B) |
自身全共闘世代であり芥川賞作家でもある筆者による、「なぜあのころ、僕らはマルクス主義に熱狂したのか?」を探る論考、になるはずだったらしいのだが、書いている途中に昨年秋以来の例の世界的金融危機が起こったのがきっかけとなり急遽方向転換。そのため、前半と後半で実はすこし文体が異なっている、ということを彼は明かしている。
前半はまさに入門的内容。カール・マルクスという人物や疎外などに代表される思想、それに伏流している歴史観、全共闘世代への影響から、冷戦の終結によってマルクス主義が資本主義の前に「「不戦敗」的に没落していった経緯までを解説。一方後半、というか終章では、今度は逆にその資本主義の過剰によってもたらされた今現在進行中の恐慌というアクチュアルな問題を論じている。 著者が物書きということでわかりやすくなっているということもあるが、すでにマルクスの原著にあたっていたり、ほかの入門書の難解な解説を読んでいる読者にとっては、はっきりいって「かったるい」内容だろう。もっとも、新書と考えればそれは乃第点ということになるのかもしれない。 ただこれがこの人、というか啓蒙主義者の限界なのかなぁとせつなくなったのは、最終的な問題の持っていきかたとして「良識」(人情と言い換えてもいい)を説いてしまうところだろうか。たしかにそれはわかる、人を思いやる良識は大切だ。しかしよく考えてみれば、この恐慌の主犯格であり、何から何まで富を収奪する(していた)現代の投資家たちに彼のいう意味での良識があるわけがなく、そういう人たちはおそらく、「良識を持て」という啓蒙にすら耳を傾けないほどに良識がないのであるから、まさに、馬の耳に念仏。 |
深くておいしい小説の書き方―ワセダ大学小説教室 (集英社文庫) |
この本では、「実存と構造」、「対立」などの観念を中心に、小説の方法論について解説してあります。従って、出てくる用語なども専門的で難しいものが多いです。
最終章の「新人賞応募のコツと諸注意」は、今すぐ小説を書きたい人にも役立つ内容ですが、他の章はどちらかといえば学問としての文学に取り組んでいる人向け、または既に小説を書いている人向けという印象です。 時間がある方におすすめです。 |